第22話

「ここが俺の街だって? フン、いい加減なことを言うな。俺の街ならどうして俺に不利な内容ばかりなんだ」

 少しドゥシェを馬鹿にしたように言い放つ光男の瞳は小さく揺れ動いている。

「ミッチー。君の街だと言っても君の願望を叶える街じゃないぃ。この街はミッチー自身を反映しているんだよぉ」

「一体、どういうことだ」

「分からないぃ? 整然と並んだ街並みはミッチー自身、本来持っている生真面目さをあらわしているんだぁ。実はいい加減な風を装っているだけなんだねぇ。どうしてそんなことをするんだいぃ? 弱い自分を隠す為ぇ、それとも自分を強く見せる為ぇ。あぁ、ごめんねぇ、どちらも同じ意味だねぇ。ククク」

 図星を指されるというのはこういうことを言うのだろうかと面には出さないが光男はドゥシェの鋭さにビクリと心臓を揺らしていた。小百合にすら隠していた自分の姿はドゥシェが言うそのもの。本来、光男はとても真面目で聞き分けが良かった。

 両親の言うままに勉強をし、優等生でやって来た光男は遊ぶ楽しさを知らずに思春期を迎える。ひょんなことからついた嘘。たった一つのその嘘が上手くいってしまい何の楽しみもなかった光男に楽しさを与えてしまう。たった一つの嘘が頭の良い光男の人生を狂わしていった。

「ちゃんとぉ、この街のまま真面目に生きていればこんな人生じゃなかっただろうにねぇ」

「確かにな。ドゥシェの言う通りかもしれない」

「でしょぅ。本当に君はかわいそうだぁ」

「かわいそう? それは違うな」

「違うぅ?」

「あの時こうしていればどうなっていただろう、あぁしていた方がよかったんじゃないか。そんなことは何度だって思うし、生きている限りそういうことは山ほどあるだろう。けど、俺は自分の人生そのものをかわいそうだと悲観したりはしない」

 はっきりと力のこもった瞳でドゥシェをまっすぐに見据えて言ってくる光男の態度に、にやけ顔をしていたドゥシェの口角は下がる。

「本当の自分とぉ、偽りの自分。二つの顔を持ちぃ、自分を偽っているのにかわいそうではないとぉ?」

「どうしてかわいそうだと言い切れる? 偽ったからこそ小百合に出会った。レールから離れなければ経験できない様々なことを学び、乗り越えてきた。そうさ、何処でどんな道を選ぼうとも、俺は俺だ。この街が示す俺は本来の俺。しかし、偽る俺も俺。刻んだ時、そのものが俺なんだ」

 ドゥシェの顔は完全に歪み、苦虫を噛み潰したような顔つきになった。

「すごい顔つきだなドゥシェ。感情がすぐに顔に出るようじゃ詐欺師にはなれないな。さて、不愉快な所、申し訳ないが質問に答えてもらえるかな?」

「フン、一体何を聞こうとぉ?」

「この街の出口は何処だ」


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