第7話

「なんだよ。俺についてくる気か?」

「さぁ、フフン」

「さぁだけじゃわからねぇだろ! ついてくる気かと聞いているんだ!」

「どうしてそう苛ついてらっしゃるんです?」

「お前が悪いんだろう! 質問に答えもせず、鼻で俺を笑いやがって!」

「あぁ、なるほどぉ。つまり、私の受け答えは貴方を馬鹿にしていると言いたいんですねぇ。しかし、それは貴方の受け取り方がそうなのであって、私自身はそんなつもりはありませんよぉ」

「何がそんなつもりは無い、だ。馬鹿にされているされていないかぐらい俺にだってわかる。実際、お前は俺を馬鹿にしている。何が朝日だ、何が概念だ。見てみろ、すっかり夜になった。あれはやっぱり夕日だったんだ」

「クケクケクケ、馬鹿にもしてないし、あれは朝日です、私にとってはねぇ。いけませんねぇ、自らの価値観を他人に押し付けようとするのは。貴方は貴方であって、私は私。別の生き物なのですからそれぞれの価値観があるわけで……」

「もういい! お前みたいなのを相手にした俺の方が馬鹿だった」

「おやおや、自分で馬鹿だとお認めになってしまわれたぁ。アハハ! なんと滑稽な!」

 手足をばたつかせ、大きな声で笑うドゥシェに暗く重苦しいほどに腹が立ち、光男は鞄を手に小百合が下りて行った山道の方へと平原を歩き始める。小百合を追うつもりはなかったが、不愉快な気分でこの場所にいるよりはずっとましだと思ったからだ。

「私との論議からお逃げになられるのですかなぁ」

「に、逃げるだって?」

「私の意見に太刀打ちできず、私と同じ空間にいると不愉快になるから逃げるのでしょうぅ? フフフ、そうして今までの人生も逃げ続けて来たんですかねぇ?」

「てめぇ、好き勝手言いやがって。てめぇに何が分かるってんだ」

「何も分かりませんよぉ。当然でしょうぅ。貴方と私は初対面、しかも、私は貴方ではないんんですからぁ」

 ドゥシェは光男が自分の言葉で苛立っていくのを楽しむようにケケケと笑って言い、その態度に光男はぐっと唇をかみ締め我慢する。

(奴のペースに巻き込まれてはいけない)

 光男の顔に詐欺師の仮面がかぶせられ、今までの苛立ちの光男は何処へやら。にっこり微笑みを浮かべてドゥシェを見つめた。

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