第6話
一方、光男は小百合が居なくなった森の中、ゆっくりと日が暮れていくのを広い草原の真ん中でぼんやりと眺める。先程までの警察に追われていた騒がしさから一転、葉のざわめきしか聞こえないこの場所になんとなく、ホッとするような気持ちになっていた。
「なんだか、何にもやりたいって気分にならないな」
呟いて後ろを振り返ってみたが、風が駆け抜けていくだけでそこに小百合の姿は無い。
「俺も一緒に行けばよかったか? いや、でもな」
膝裏に鞄を挟み込んで体育座りになった光男は膝の上に顎を置いてハァと深いため息をついた。
「あれ、何だ。先客が居るよぉ」
突如、右側から甲高い声が聞こえ、光男は驚いて体を揺らし右へ顔を動かす。手足が長く、夕日に照らされた影がそのまま起き上がったような男はシルクハットを頭から取り、深々と礼をする。
「どうも、どうも、先客殿ぉ」
「あ、えっと、すみません」
「これは面白いぃ。こんばんはと言って謝られたよぉ」
クケクケとおかしな笑いを浴びせ、手足の長い男は光男の横に腰を下ろした。
(な、何だ? 誰なんだ? コイツ……)
「おぉ、そうか。忘れていた忘れていたぁ。私はドゥシェと申しますぅ」
「え? あ、はぁ」
自分が誰かと心の中で思ったはすの質問にドゥシェが答え、光男は考えが読まれたような気がして少し気味が悪いと身構える。
「いや~、良い朝日ですねぇ」
「はぃ? 朝日?」
「えぇ、素敵な朝日でしょぉ」
光男はドゥシェの何気ない言葉に驚き、首をかしげた。先程まで頭の上で日が照っていて、それが沈みかかっている。それは夕日であって朝日ではない。
(これは夕日だ、何を言っているんだ)
光男がドゥシェを眺めればその口角がじんわりと引き上げられる。
「人の取り様等、人それぞれぇ。夕日か朝日か、その概念だって先人がきめたことを守っているに過ぎないでしょぉ? 昇る日が朝日で、空を渡って沈む日が夕日。貴方の概念がそこにあっても私の概念はそこには無いぃ」
「一体何を……。それにさっきからまるで俺の考えていることが分かっているかのように」
「わかりますよぉ。当然でしょうぉ」
「当然って、人の考えが分かることが当然だというのか?」
「さぁ、フフン」
いやらしい微笑みを口元に浮かべてこちらを眺めてくるドゥシェに不気味さしか感じなくなった光男は、小百合の下りて行った道を自分も行こうと立ち上がれば、ドゥシェも立ち上がる。
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