第5話
「おい、小百合。小百合! 何時まで気を失っているつもりだ、起きろ!」
光男の怒鳴り声と体を乱暴に揺らされ、小百合はいまだじんわりと痺れる頭に手を置いて起き上がる。ざわりと青臭さが鼻をさし、何度か瞬きをしてあたりを見渡せば、そこは森の中の広場。ちょうど二人の居る場所の上空には森の木の枝は一本も無い。円形状のその広場の木と草の分かれ目には地面から石が十二本はえていた。
「ここ、一体何処なの?」
「俺が知るわけが無いだろ。俺もさっき目が覚めた所でここから動いてない」
「さっきの店とはまるで違うっていうことは、やっぱりあれは夢じゃ無かったって事なの?」
「あぁ、多分そうだと思うけど、俺にも何が何やら」
こんな状況でも大事そうに鞄を抱えてうなだれる光男の姿に少々呆れながら、小百合はしっかりしない自分の頭に気合を入れるように頬を叩き、歩いて森の色んな場所を覗き込む。
左右の森の奥には木々しか見えず、前と後ろは少し生い茂った木の向こうに空間が見えた。
前方の森の木をよけながら進めば切り立った崖が現れ、眼下に街らしい建物がある。辺りを見渡しても階段等見当たらず、ここから下りていくことは出来ない様子。諦めて反対側の空間に行ってみれば下へと向かう山道がある。
「これを行けば、さっきの街に下りられるのかしら?」
踵を返して光男の所までいき、小百合はうずくまったままの情けない男に声をかける。
「ちょっと、光男、いい加減ここから移動しない? あの道から下へ行けばもしかすると街に出るかもしれないわよ」
「じゃぁ、お前が先に行って、街に出られてその街が安全だったら迎えに来いよ」
「なにそれ?」
「確かにここはさっきの時計屋じゃないかもしれないが、街に下りて警察が居たらどうするんだよ」
「あたいをかませ犬にでもしようっていうの? おふざけでないよ。だったらここで何時までも一人で居ると良い。あたいはこんな所で野宿するなんて真っ平ごめんだわ」
鼻息をその場において、小百合は一人スタスタと獣道のように草が生い茂るその間、僅かに茶色い地面が見える所を下りて行った。腰ほどの高さまで伸びきった草は薄着の小百合の体に傷を作っていく。
「何だろう、この草。通った瞬間に道が狭くなるような」
まるで意思を持っているかのように突き刺さる草に不気味さを感じながらも小百合は道なりに山を下りていった。坂道がもうすぐ終わると思った瞬間、目の前が急に開けてレンガや石造りの家が立ち並ぶ大通りが現れる。
「あ、あれ? 道はまだ続いていたし、ずっと遠くに街並みが見えていたのに。どうして?」
やってきた方法が方法なだけに疑惑はあったが、やはりこの場所はおかしいと小百合の眉間には皺が刻まれた。ふと、森に残してきた光男のことが頭をよぎったが、あのようにいわれたからには何かしらの情報を持って帰らないと悔しいような気がして、頭を振り、石畳の道を街中へ進んでいった。
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