第29話

「二人きりにさせてくれないなら、あたいもここで死ぬわ」

「ふざけないでよ。言ったでしょ、次を探すのは面倒なのよ」

「やれやれぇ、どうしようもないねぇ、後で色々言われても面倒だしねぇ、仕方がないから時間をやってはどうだろぉ」

「フン、仕方ないわね。じゃぁ五分上げる。それ以上はダメよ」

 機嫌悪く小百合に言ったセイラムはドゥシェの肩に飛び乗り、街への道を歩いていく。

 二人の姿が視界から消え、小百合はゆっくり息を吸い込み涙を拭いて暫くの間様子を伺った。どうやら、二人は約束を守っているようでこれと言った変化は無い。それを確認した小百合は横になる光男に囁く。

「いいわよ。大丈夫みたい」

 小百合の囁きに光男の指がピクリと動き、その体をゆっくり起こした。

「ふぅ、ばれないかとヒヤヒヤしたぜ。だが、さすが俺の相棒、上手く騙したな」

「フフン、そうでしょ。何と言ってもあんたに仕込まれたあたいだからね」

 にやりと笑っていう光男に悪戯で得意気な笑顔を返す小百合。光男は大きく伸びをした後、胸に指されたナイフを抜いて、胸ポケットから札束を取り出した。

 そう、これは光男が企んだドゥシェ達を騙す為。相棒同士だからこそ分かる瞳での会話がもたらした最高の芝居だった。

「俺の考えている事が良くわかったな。考えればドゥシェに読まれる可能性があったから頭では考えないようにしていたんだが」

「初めはわかんなかったけど、ドゥシェの提案を受けたあんたの目が生きるって言っていた。それにあたいに囁いた生きて帰るって言葉でなるほどって確信したのよ」

「そうか。しかし、ここが出口だとは思わなかったな」

「でも、場所が分かった所でどうすればいいのかが分からないわ」

「いや、思い出してみろ。ヒントだといったセイラムの言葉。そして、それを喋り過ぎだと止めたドゥシェ。あの言葉にあるんだよ、本当にヒントが」

「そうは言っても、あれって何かの呪文みたいで」

「ふぅ、俺の相棒だろ? もう少し注意してみろ。いいか、ドゥシェはここを時計の文字盤だと言ったんだ。だとすれば、小人って言うのが何を指すかわかるだろ?」

「えぇっと、うぅんっと、全然」

「こりゃしごき直しだな。いいか、小人と言うのは多分時計の短針だ、そして一直線に影っていうのは」

「あっ、長針だ! 一直線って言うことは両方の針が真っ直ぐに並ぶ時ってことね」

「正解」

「でも、それだけじゃ」

「馬鹿、それだけじゃないだろ。倍数半分割り切って、二つの針が一直線に並んで、指し示す数字が倍数になって半分に割り切れる数字、六と十二」

「うん、確かにそうかもしれない。でも光男、どの石が六で十二か分かんないでしょ」

「これもヒントにあるぜ。影だよ影。ただの丸い場所なら何処でもよかったはずだ。でも、ここは空が見える。小百合、円の中心に立ってみろ」

 光男に言われるまま、小百合が立てば、真上にある月明かりに照らされて地面にうっすら影が現れる。

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