第30話
「不思議。真上から照らされているはずなのに影が伸びる」
「森に囲まれていて良く分からないが、場所は少し傾いているみたいだな。見てみろ、影が差指している石があるだろう。おそらくそれが十二。石碑に願う、つまりはその十二の石碑に帰りたいと願えばいいんだ」
それまで光男の推理になるほどと頷いていた小百合は十二の石に向かっていく光男を眺めながら少々首を傾げる。石を見つめながら小百合の頭の中は今までに無いほどぐるぐると考えをめぐらせ、ハッと気付いた小百合は叫んだ。
「だ、駄目よ! 光男!」
小百合は慌てて駆け寄り、石碑に置こうとした光男の手首を握った。突然のことに驚いた光男は小百合をみて聞く。
「な、何だよ突然。まさか、今更帰りたくないなんて言うんじゃないだろうな」
「違うわ、おかしいと思わない? 今のが全部だとすればドゥシェはどうしてセイラムの言葉をさえぎったの?」
「それに、そこまで教えていたのにドゥシェはあたいは絶対に帰れないって言ったわ。つまり」
「これでは帰れないって事か。クソ、この世界に来たときに時計が全て十二時を指していたから絶対にあっていると思ったんだが、俺の解釈が違うのか?」
「そうだ、そうよ! 来るときは十二、帰る時は六なんだわ! 倍数半分割り切ってっていうのは光男が考えた答え以外に数字の六を示していたのよ」
「ほらぁ、御覧なさいぃ。セイラムが余計なことを言うからぁ」
「フン、小百合だけなら解けなかったわよ。まさか、あたし達を騙すとはね。ただで済むとは思ってないわよね?」
ドゥシェの言葉にフンと鼻息をふきかけ、肩から飛び降りたセイラムは瞳を光らせ、その体はスマートで小柄な白猫から身の丈以上ある、見上げるほど大きな化け猫へと変わった。
「まさか騙されるなんて思ってなかったんでしょ? 今まで人間を騙してその手の中で躍らせていたから」
「下等な生き物が生意気な。ドゥシェ、こいつ等は駄目だ。また新たに創造主を見つければ良い。奴等は喰ってしまおう」
「ふぅむぅ、仕方が無いですねぇ。従わせる方法は幾らでもありますがぁ、心を壊しては招いた意味が無いぃ。かといって、我々に従ってもらえないのは困るねぇ。ちょうど腹も減っていたしぃ、そうだねぇ、喰ってしまおうかぁ」
じりじりと巨大な狂ったセイラムとドゥシェが二人に近づく。威勢よく啖呵を切ったつもりの小百合の手は小さく震えていたが、その手を光男が握り締め、にっこり微笑んだ。
「光男?」
「小百合、俺についてくるか?」
「今更何言ってんだか。あんた以外にあたいを連れてってくれる奴なんているっての?」
「ククク、そりゃそうだ。お前を扱えるのは俺くらいなもんだ」
にやりと微笑んだ光男は舌なめずりをして近づいてくるセイラム達が前方に来るように身構えてじりじりとその足を横へと滑らせていく。
「逃げようたって無駄だよ。管理者のあたしがあんた達を喰うときめたんだ。お前等はこの世界に居る全ての人外の者達の餌となったんだからね」
赤く瞳を輝かせたセイラムは涎を垂らしてそう言い、光男はそれに対して何も言わずおびえて距離をとり逃げた。長い爪の付いた大きな前足が何度も体をかすめ、ドゥシェのナイフが通り過ぎていく。何度か危ない目に遭いながらも二人は決して手を離さず逃げまわり、二人の背中に岩がぶつかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。