第28話
何時、どちらが倒れるのかとドゥシェは目を見開き、口角を瞳に向かって吊り上げ、セイラムは興奮して尻尾がぴくぴくと動く。
緊迫する二人の刺しあいに決着がついたのは小百合がバランスを崩した瞬間だった。前方に向け、しっかりと握り締めていた小百合のナイフが光男の胸に突き刺さる。
「小百合よ! やったのは小百合だわ。あたしの勝ちね」
「やれやれぇ、せっかく相手がバランスを崩したというのにぃ。馬鹿ですねぇ。最後まで使えない男だぁ」
見事なショーと賭けの勝利に歓喜するセイラムと、負けてため息をつきつつも楽しかったショーに拍手を送るドゥシェ。崩れるように地面に突っ伏した光男の体のすぐ近くに座り込んだ小百合は、涙を流しながら二人を睨みつけた。
「さぁ、あんた達の思惑通りになったわよ。出口を教えなさいよ」
「そういえばそういう約束だったわね。どうする? ドゥシェ」
「約束は約束ですからねぇ、教えて差し上げましょぉ」
そういって、ドゥシェは草原と森との境目にある石の柱を指差す。
「この場所には少々秘密がありましてねぇ。この場所、何かに似ていると思いませんか?」
「今、考えられると思っているの?」
「自分でやっといて後悔しているなんて滑稽だわ。クスクス、人間ってそういうところがあるのよね、後悔するぐらいならやらなきゃいいのに」
「あんた達が! あんた達がやらせたんじゃない!」
「止めることは出来たわ。でも、貴女達はしなかった。あたし達のせいにしないでほしいわ」
小百合は流れる涙をそのままに、唇をかみ締めセイラムを睨み付け、セイラムはフンと顔を背けた。
「メスという性別はそういうややこしいのがあるから面倒なんですよねぇ。話の続きをしますよぉ。いいですかぁ、この円形の場所の隅々に等間隔で十二本の石ぃ。つまり、ここは時計の文字盤と同じなんだねぇ」
「時計? 時計! そうだ、ここに来た時も時計が」
「ご明察ぅ。時計とはその時を刻み込みぃ、記し示すものぉ。この場所は入り口でありぃ、出口なんだよぉ」
「ここが、出口だったの」
「賭けに勝たせてくれたお礼にヒントをあげるわ。小人が立てば頭上の月光、一直線に長い影、指された倍数半分割り切って、石碑に願う願いはなぁに?」
「何の呪文?」
「さぁ、何かしらね」
「セイラムぅ、それ以上言うなら消しちゃうよぉ。全くぅ、喋り過ぎだぁ。小百合ぃ、君は帰る事は出来ないし知り合いも君が殺したぁ。例え元の世界に帰ってもぉ、君は平気なのぉ? だって逃げ出してきたんでしょぉ? 君は一人きりぃ。さぁ、街へ戻ろぉ」
「それくらい、分かっているわ。でも、でも、暫く光男の傍にいさせてくれてもいいでしょ!」
「そんなに気にしなくても良いのにぃ。いずれこの森がその死体を綺麗さっぱり処理してくれるよぉ」
「森が、処理?」
「おや、気付かなかったかいぃ? この森は生きているんだよぉ」
「そう、あたし達と同じ、この森も人外の物なのよ。こいつ等は人の血肉を好むの。そのうち、そいつの肉を貪り始める」
「そ、そんな」
「だから、別れが言いたいって言うんだったら手短にすることね、貴女の血もすすり始めるわよ」
「そうそう、君も危ないんだよぉ。早く街に行こぉ」
「二人っきりにさせて」
項垂れて光男の頭を抱えて膝枕をし涙を流している小百合に、呆れるように近づいて連れて行こうとした二人。その気配に小百合は背中を見せたまま怒鳴る。
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