第27話
「あ、貴方達が、やっているのね」
「だって、こうでもしないと殺しあってくれないでしょ?」
「嫌よ! どうしてこんな事。あたい達になんのメリットも無い」
「ふむぅ、言われてみればそうですねぇ。ではぁ、特別に生き残った方に出口を教えてあげましょぉ」
「それは、本当か?」
ドゥシェの言葉に光男は絞りだすように声を出し、ドゥシェは少々驚きながら首を縦にふる。
「素晴らしい意思ですねぇ。まだ自分で言葉を紡げるとはぁ。本当ですよぉ、殺し合いという素晴らしいショーを見せていただけるのであればぁ、出口を教えるくらいはしてあげてもいいでしょぉ」
それを聞いた光男は暫く考え込み、一息吐き出して、小百合を睨みつけた。
「み、光男?」
光男の瞳は真剣で、小百合はごくりと唾液を喉に流し込む。
「おやぁ、おやぁ、口ではなんと言っていてもやはり下等な人間。出口という餌に食いつきましたかぁ」
「欲望に忠実。そこだけは人間に好意を抱けるわ」
「やりあうなら獲物が必要ですねぇ。さぁ、受け取りなさいぃ」
ドゥシェが指を鳴らせば、煙と共に一振りのナイフが現れ草の上に落ちた。光男は小百合を睨みつけたままナイフを手に取り、ゆっくりと小百合を正面に捕らえる。その姿に、小百合は緊張の表情を浮かべ、じりっと後ずさった。
「み、光男。嘘でしょ?」
「小百合、すまん。俺はやっぱり帰りたい」
「うん、そうだね。あたいも帰りたいよ」
「悔しいけど、出口を知っているのはあいつ等だけだ。分かるだろう、これはチャンスなんだよ」
光男の言葉に小百合も地面に落ちているナイフを拾い、両手でナイフの柄を包み込んで、前傾に構え頷く。
「分かるよ、光男」
二人は見つめ合い、時間が止まる。
「思考が止まったぁ」
「そうね、さっきまでぐちゃぐちゃだった小百合も、何も考えていない」
小百合と光男の様子にドゥシェ達は不気味さを感じ怪しい気配を更に強めた。指一本も動かさず、ナイフを握ったまま、真剣な眼差しで見つめあう二人の思考はゼロ。月明かりが二人を照らし、長い影が風になびく草の上に降りる。
「何時まで見つめあうつもりですぅ。さっさと始めなさいぃ」
全く動かない二人の様子に痺れを切らしたドゥシェが怒鳴れば、小百合の体がビクリと動き、光男はナイフをギュッと握り締めて地面を蹴った。走りこんできた光男の腕が左から小百合の右耳を通り肩を掠める。小百合のナイフは光男の左のわき腹をかすめ、光男は受身を取りながら転がり、すぐに体制を整え再び小百合に襲い掛かった。
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