第26話

「招く? 攫うの間違いだろ」

「受け取り方はそれぞれぇ。我々はあくまで招いているんだよぉ。強くその場から逃れたいと願う者の願いを叶えてねぇ。実際、戸惑う方は多かったですが、貴方達のような方は居ませんでしたよぉ」

「あたい達のようなって?」

「やたらと出口出口と騒ぐ方ぁ」

「そうね。しかも、折角別れさせたのにもう一度出会うなんて、最低よ」

 大きなため息をついたセイラムに体を陽炎のように揺らして近づいたドゥシェ。何かを企むように視線を二人に向ける。

「さてぇ、我々は人間を必要としているぅ。出来れば貴方方以外の人を迎える手間は省きたいぃ。どうしたもんでしょうかねぇ、セイラムぅ」

「あら、ドゥシェ、簡単なことよ。どちらか一人にすればいい話でしょ」

 二人の微笑みは同調し、ドゥシェの瞳が怪しく光った。それと同時にセイラムの体も光り始める。怪しげな光りに異常さを感じた小百合は光男の腕にしがみついてドゥシェを見つめながら叫んだ。

「光男と離れるなんて嫌よ!」

「小百合」

「あたい、思い出して、そして分かったの。一人がどれだけ心細くて自分が弱くなるのか。誰かが居るから頑張るし見栄も張る。良い事ばかりじゃないけど一人じゃないって思える、それってとても大切なことだわ」

「そうだな、俺もそう思う。騒がしくて、たまには邪魔に思える存在だけど、居なくなって見れば寂しくて、襲ってくる孤独につぶされそうになる。煩くても鬱陶しくても、傍にいてくれる方が良い」

 少し照れるように微笑み合う二人に、セイラムは眉間に皺を寄せた。

「詰まらないわ。どうしてあたし達がこんな連中の仲良しごっこに付き合わなきゃいけないのよ」

「そうだねぇ。まぁ、元々ぉ、私達ほどに高尚な生き物がこんな下等な連中の世話にならなきゃいけないって事がおかしいんだよねぇ。ではセイラムぅ、我々の退屈を紛らわせぇ、更に目的通りに必要な人間一人にするのにこういうのはどうかなぁ」

「何、いい考えでもあるっていうの?」

「互いに殺しあってもらうってのは」

 二人のやり取りに小百合は驚き、光男を掴んでいる手が震え始める。

「そうね、良いわね。じゃぁ、もっと楽しくする為に賭けをしましょう。あたしは小百合に賭けようかしら」

「勝者への褒美は何だいぃ?」

「次の人間を迎え入れるまでの間、ここの管理人権限行使を自由に出来るって言うのは?」

「クククぅ、それは良いぃ。では、私は光男に賭けよぉ」

 ドゥシェの唇の端が引き上げられ指を鳴らした。

 すると、勝手なことばかり言う二人を睨みつけていた光男は体の自由がきかなくなり、自分の意思とは関係なく小百合の腕を払い、小百合との距離を置く。

 ハッと小百合がセイラムのほうを見れば、セイラムはニヤリと微笑み体中から発している蒼い光を大きくし、その揺らめきにあわせてからだがゆらゆら動き出した。

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