第3話
「……時計もこれだけあると不気味だな」
「そう? あんたって本当に小心者なのね。良くもまぁ、詐欺師なんて度胸のいる仕事をしているもんだわ」
「その小心さがあるから詐欺師がやってられるんだ。何にも知らないカモ引きが偉そうにいうな」
「そのカモ引きの苦労も知らないあんたに言われたか無いわ」
「たかがカモ引き……」
「されどカモ引きよ!」
小百合の言葉に少々むっと顔を歪め、小百合と距離を置いて埃にまみれた床に腰を下ろす。
空き家の窓という窓が赤く照らされ始めて、小百合は窓際から離れ、店の奥のほうに身を隠しながら座り込んだ。
「ねぇ、こんな所、すぐに見つかるんじゃ」
「大丈夫だよ。人間って言うのは隅々まで探しているつもりでもどこか穴が抜けてしまうもんだ。俺が適当な空き家に入ったと思うか?」
「違うって言うのかい?」
「街から逃げてきて初めにぶつかる集落がここだろう?」
「あぁ、そういえば街を抜けて、さらに田んぼを抜けた先がこの商店がある集落ね」
「で、その入り口近くの小さな路地の奥にこの店があっただろう?」
「うん、表通り側にはでかい肉屋があって、この店はその裏手だけど」
「そこが盲点なんだよ。入ってすぐの場所はただでさえあまり探さない。木が茂っているから一見ここは肉屋だけで他にはなにもないように見える。肉屋を探して何もなければ他に隠れる場所があるように見えないところは後回しにして集落の奥から探していくはずだ」
「本当に? あんたを信じてまた大変な目にあうのは勘弁よ」
「信じたくないならさっさと出て逃げれば良いだろう」
「絶対に嫌よ。そうしてあたいに注意が向いている間にあんたは無事に逃げようって算段なんでしょ? その手に乗るもんですか」
光男の思惑など自分は分かっているんだとじっとりとした視線を向けて、小百合は口にし、光男はチェッと舌打ちする。
並ぶ時計がぼんやりと赤く照らされる店の中、二人は奥で小さく、じっと息を潜めて一夜を過ごしていた。
何かをしゃべるわけでもなく、瞳を閉じて自分の心臓の音を聞きながら過ごすうち、自分の鼓動が時計の秒針の音のように思え、いつの間にか眠りについてしまう。
コチコチ、カチカチ、コツコツ。
耳から入ってくる騒がしいまでの様々な秒針の音に二人は薄く目を開けた。
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