第14話

「あたいだって。あたいだって一人の人間で、自分の考え位持っている」

「フン、偉そうに。口では何とでも言える。持っている考えとやらはとてもありきたりで平凡で、解決には至らない内容ばかり」

「そ、そうよ、どうせあたいの考えはありきたりかもしれない。でも、考えは考えでしょ! 言う通りにすればいいとか、従えとか。少し位、どうしようかと相談してくれてもいいじゃない。どう考えているってあたいの考えを聞いてくれてもいいじゃない!」

「得てして、何も出来ない何も考えられない輩ほど、そうやって自分を主張したがるのよね」

「主張したいんじゃない! 何でもかんでも従えと押し付けられたくないだけ!」

「フン、あたしに言わせればどちらも同じ事よ」

 瞼を半分閉じて睨みつけるに近い眼差しで小百合を見つめ、体の向きを変えたセイラム。しゅるりしゅるりと尻尾をうねらせて、石畳の階段から手すり、建物の壁へと上って、小百合を見下ろす。

「言いたい事があるなら聞かれる前に言えば良い。聞いて欲しいことがあるなら大きな声で主張を聞かせれば良い。そんな簡単なことも貴女はわからないのかしら?」

「簡単なこと? 簡単なことなんかじゃないわ」

「あら、それは貴女が貴女の中で閉じこもっているからでしょ。陰気に自分の思いを胸の中で混濁させて吐き出すこともしないで、ただ、相手が悪いと決め付ける。最低ね」

 小百合はセイラムの言い分にクッと唇を噛み締めた。セイラムの言っている事は理解できる、確かにその通りなのかもしれない。しかし、小百合の頭の中ではそれが出来る人間と出来ない人間が居るという考えが渦巻いていた。

(そうよ、あたいはそれが出来ない人間。光男やこの白猫はそれが出来る。出来る者は出来ない者の思い等汲み取れない)

 セイラムをジッと見つめたままの小百合に塀の上で香箱に座りホゥとため息を吐く。

 その姿はいかにも言いたい事があるけれど言わないと態度で示しているようで、小百合はセイラムの瞳を見つめて視線を逸らさず静かに口を動かした。

「言いたい事があるなら言うんでしょ。聞かれる前に」

「あら、そういう嫌味を言うことは出来るのね。ホント、真剣に最低な女だわ」

「女なんて皆似たり寄ったりよ。ただ、それを表に出すか裏で隠し続けるかの違いだけ」

「ずいぶん自分を卑下するのね」

「自分を卑下なんてしてない。ただ、あたい一人が特別最低と言うわけじゃないって事を言っているのよ。そんなことも分からないの?」

「あら、そう。貴女と同じと思われている他の方々って良い迷惑ね。貴女って本当に他人に踊らされやすくて他人に忠実ね」

「あたいが、忠実?」

「気付かないっていうのも忠実さの表れなのかしら。残念だけど、そんなに答えを求める瞳をされてもあたしは教えないわよ。あたしが説明する義務はないし、あたしはそういう親切は大嫌いなの」

 瞳を細く、にんまりと意地悪な笑いを浮かべて立ち上がったセイラムは尻尾を振ってその場から立ち去ろうとする。

「ちょ、ちょっと、何処へ」

「決まっているでしょ、あたしはあたしが行きたい所に行って、やりたいようにやるの。貴女は貴女で自由にやれば? それが従いたくないって言う貴女の望みなんでしょ?」

「そ、そりゃそうだけど」

 自分の言葉を聴いて欲しいとは思ったし、聞いてくれないセイラムに腹も立った。しかし、いざ、突き放されてしまうと心細さが湧き上がる。

 セイラムは小百合の心の変化を敏感に感じ取り、背を向けたままニヤリと笑って前進しようとしていた足を止めた。

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