第13話

 小百合は頭を地面に向けながら白猫のセイラムと階段を上る。

 セイラムの案内で街中の重要な部分を見て廻った小百合はセイラムの「じゃぁ、行きましょ」という言葉に従って歩いていたのだ。何故か、セイラムを抱きかかえた時から小百合は自分の意思で歩いているようでありながら、セイラムに操られているような不思議な感覚の中にいる。

「何処まで行くの?」

 頭の中心がぼやけていく、思考をしているようでしていない中、セイラムに問いかければ、セイラムは大きく欠伸をして細い視線を小百合に向けた。

「貴女はあたしの言う通りに進めばいいのよ」

「でも、何処に行くかくらい教えてくれてもいいじゃない」

「何処に行くかなんて、ついてみれば分かる事でしょ。言う必要は無いと思うけど」

「知らない場所で何処に連れて行かれるのか分からず歩くなんて不安でしょ」

「不安? そんな不安抱かなくてもいいわ。この街でここまで親切にしてあげているあたしが連れて行くのよ。変な所のわけないじゃない」

 確かに、セイラムは小百合がこの街にやってきてから出会った中では一番まともだった。

 様々な人に聞き込みをしたが、異様な街並みのせいか、出会った人々の言う事は様々でそのどれも信用ならない情報。嘘偽りだらけだった情報につかれきっていた小百合にとって、セイラムの正確な情報は助かっていた。

 しかし、それはそれ。

 知らない場所で目的地も分からず連れて行かれる不安は誰もが抱く感情だったし、何より小百合はセイラムを抱きかかえてから伝わってくる、操られているような感覚に不信感もあった。

「ついていくけど、何処に行くのかぐらい聞かせてくれてもいいと思うんだけど」

「ふぅ、意外に面倒ね、貴女」

「え?」

「ついてみれば何処にやってきたのかわかることなのに、どうしてそう結論を急ぐの? まるで小さな子供が親を質問攻めにするように何処にいくの、連れて行くの? って。鬱陶しいわ」

「鬱陶しい? あたいが?」

「そう、貴女は本当にとっても面倒くさい女だわ。何も分からない世界に来て、世界を知っているあたしを頼ったんでしょ。だったら、あたしの言う通りにしてればいいのよ」

 クククと含み笑いをしたセイラムの言葉に重なって、以前光男に投げつけられた言葉が蘇る。

「お前は俺の言う通りにしてれば……」

 光男は小百合が何か意見を言えば必ずそういって、自分が正しいんだと主張した。正しくなければ(やっぱり、あたいの言った方が正しかったんじゃないか)と、不満が湧き出てくる。たとえ、本当にそれが正しかったとしても素直に言う通りにして良かったと思えなかった。

「あたいにだって、あたいの考えがある」

 小さく口を動かして呟いた小百合にセイラムは「止まりなさい」と命令して歩みを止める。

「貴女には貴女の考えですって? それじゃぁ、その考えとやらを聞かせてもらいましょうか。何も知らない、知り合いも居ないこの場所で、貴女は一体どう考えて、どう一日を過ごすと言うのかしら?」

「宿屋に部屋をとって、食事は何処かの店で」

「アハハハ! なんてありきたりな回答なのかしら。そうね、貴女ならそれが限度ね」

 まくし立てた挙句、セイラムは自分を馬鹿にするかのように言い、小百合はお腹の中から湧き上がってくる怒りで頭のぼやけた感じが消し飛んだ。抱きかかえていた腕の力を抜けば、セイラムはバランスを崩して地面に落ちる。

「にゃっ! い、いきなり危ないわね!」

 流石は猫。そのまま背中をぶつけるかと思いきや、一回転して足から着地。すぐさま小百合のほうに頭を向け、背中を丸め威嚇しながら怒鳴りつけた。

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