第15話
「ついて来て下さいって頭を下げれば一緒に居てあげてもいいわよ」
「はい?」
「ただし、これからはあたしのいう事に意味のない事を言って逆らわないって条件がつくけど」
セイラムの後姿を瞳に映し、思わずすがりそうになった小百合は伸ばしかけた手を引っ込める。逆らわない、その一言が小百合の心に引っ掛かった。逆らったつもりは全く無い、ただ、小百合は自分の意見や言葉を聴いて欲しかっただけ。
「いらないわ。勝手に行けば良い、あたいも勝手にする」
「あら、あら。いいのかしら?」
「いいって言っているでしょ! 猫になんか世話になったって光男に知れたら笑われるもの。そうよ、あたいはあたいでやるわ」
「あぁ、そう。ふん、ここの住人は一筋縄じゃいかないわよ。精々気をつけることね」
ツンと顎をあげ、捨て台詞をその場に残してセイラムは壁の上を器用にすたすたと歩いていく。意地から断った小百合だったが、セイラムが遠ざかって行くほど、周りの者たちの瞳の輝きが違って見えて不安が足元から湧き上がってくる。
売り言葉に買い言葉、吐き出してしまった言葉を戻すことはもう出来ない。
形には残らなくても相手の中には残っているのだから。何より自分の中にもセイラムの言葉が残っていた。不安はあるものの、セイラムの言葉を思い出せば彼女に頼りたいという気持ちは少なくなる。
「落ち込んでいてもしょうがない。まずは宿屋にいかなくちゃ」
歩いてきた道を引き返し、階段を四方に渡った街並みの一番奥、セイラムに教えてもらった宿屋にたどり着いて中へと入っていった。
「いらっしゃい……」
扉から入ってきた小百合をチラリと眺めてすぐに視線をそらせた受付の態度に少々ムッとし、小百合は胸を張って受付まで歩いていく。
「泊まりたいんだけど。部屋はある?」
「ククク、泊まりたい? あんたがここに泊まるっていうのかい?」
「だってここは宿屋なんでしょ。だったら泊まりたいといって何が悪いの」
「いや、悪かないけどね。ただ、あんたを泊める部屋は無いよ」
「部屋が一杯だって事?」
「部屋は空きがある、だが、あんたはここには泊まれないってことだ」
「意味が分からない。営業して無いって事?」
小百合が眉間に皺を寄せて質問していると、後ろからやってきた黒影のような人に店主はにっこり微笑んで鍵を渡した。
(営業してないってわけじゃなさそうね。つまり、あたいだから泊めないということね)
店主の態度に小百合は壁に貼り付けてある数字を見つめ、指差しながら店主に言う。
「あの代金の倍額を支払うっていっても泊めてはもらえない?」
「倍額? あんたに払えるとは思えないけどな」
「あたいに無理でも、あたいの連れが払ってくれる」
「確証がないね。この街では口約束はしないにこしたことはないからな。その理由位は知っているだろ?」
片眉を上げて意味深に微笑む店主に小百合は首をかしげた。
「何を言っているの?」
「ハァ? あんた、そんなことも分からずこの街にいるのかい? なら余計に約束はできねぇな。出てってくれ」
店主が指を鳴らし、奥からやってきた体の大きな男達に抱えられて運ばれる。
「ちょ、ちょっと! 何なのよ!」
「この街での会話をよぉく注意してみればわかる。おめぇは歪んじゃいるが歪みきってないからな」
ジタバタ暴れる小百合に大男の一人がぽつりと囁き、もう片方の大男が睨みつけて余計なことを言うなと静止した。抱えられて運ばれた小百合は道路に放り出さる。尻餅をついた痛さに顔をゆがめていると、周りからクスクス笑う声が聞こえてきて辺りをみまわした。
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