最終話
ざわざわと騒がしさに目を覚ました光男はぼんやりと死ながら辺りの様子を眺め、ハッとする。
「さ、小百合!」
確かにしっかり抱えていたはずの小百合の姿が見当たらず、頭の中心を揺らされるほどの眩暈を感じ、地面に手をついて立ち上がった光男はすぐにその場に座り込んだ。
(気を失って放してしまったのか? しっかりしろ、光男、小百合を探すんだ)
自分が帰ってきたのか、帰ってきてないか、それよりも何よりも今の光男には小百合の存在の方が大事で、壁にへばりつくように足を出す。しかし、どんなに気力で頑張ろうとしても体は言うことをきかない。
焦りだけが大きくなっていくなか、何度目かの挑戦の最中、再び膝に力が入らなくなって崩れ落ちた光男はふわりとしたものに支えられ視線を移す。
「折角寝かせていたのに、もう起きたの? そんなボロボロでどうしようってのよ」
「ボロボロって、誰のせいだと思っているんだ。まったく」
「そうね、あたいのせいだわ。ごめんなさい」
いつもなら「あたいのせいだって言うの!」と怒鳴りつけてくるはずの小百合が妙に素直なことに少々面食らって眺めていると、少し頬を染めた小百合が口を尖らせた。
「何よ。あたいだって悪いと思えば謝るわよ」
「ふ~ん、そんな一面があったとは初めて知ったな」
「あの光の中、あたいは気を失ったけど、目を開ければあんたがしっかりあたいを抱きかかえていた。誰のおかげで戻って来られたのかぐらい分かるわ」
「戻ってこられた。ってことはここは」
「なんだ、そんなことも気付かずに歩き回ろうとしていたの?」
「小百合が居なかったから落としてきたかと思って焦ったんだよ」
帰ってきたことよりも一番に自分を心配してくれたんだと言うことが少し恥ずかしく、壁に光男を持たれかけさせた小百合は背中を向ける。
「それにしても、サツが居ないのか? それにここはあの時計のあった店じゃない」
「あたい達、あの事件の前に帰ってきているのよ」
「どういうことだ?」
「あたいが、あの時一緒に願ったんだよ。戻るならあの事件の前に戻してくれって。光男が目を覚ます前に色々聞き込んできたんだけど事件は起きてないし、誰に聞いてもあの事件の三日前にあたい達は居るみたいよ」
「やるな、相棒」
小百合の言葉に負けたと微笑した光男は、フゥと一息吐いて、背中を向ける小百合の腕を引っ張った。
「最初で最後の質問だ」
「な、何よ」
「ずっと俺の傍に居てくれるか?」
「ずっとって何時までの話?」
「そうだな、この世に俺って言う形がなくなるまでかな」
「そうね、それじゃ、この世にあたいっていう形がなくなるまであたいの傍に居てくれるなら考えてあげてもいいわよ」
「なんだ、それなら二人ともずっと一緒って事か」
「当たり前じゃない。あたいはあんたに拾われたときからずっとあんたと一緒だったんだから」
二人の口元には笑顔が浮かぶ。
「でも、いいの? あたいはきっとまたあんたに憎まれ口を叩くだろうし、あんたの思い通りには動かないよ」
「ふん、それを言うなら俺もだ。少しわかった気がするよ」
「何が?」
「俺がお前を選んだ理由。お前は俺が持ってないものを持っていて、俺以上に俺のことを分かってくれている。だから俺は小百合と一緒に居てやってもいいとおもえるんだ」
「フン、居てやっても良い? それはこっちの台詞よ」
「ほら、そうやって人の揚げ足を取りながらあけすけに物を言う。嫌いじゃないぜ、それ」
おかしげに笑う光男に、少々呆れて一息吐いた小百合は、すっと光男に握られていないほうの手を差し出した。
「これから、どうするつもり?」
「かわらねぇよ。いつも通りだ。ただ、せっかく神様仏様が与えてくれたチャンスだからな、この前みたいな失敗はしないさ。方向性も変えようと思う」
「方向性? あんたの詐欺に方向性なんてあったの?」
「騙しやすい奴から騙し取るって言う信念があったぞ」
「底の浅い信念ね。で、今度の信念は?」
「ドゥシェみたいな気分を害する嫌な奴等から頂くようにする」
「アハハ! そりゃいいや。じゃぁ、そこにセイラムみたいなってのも付け足しといてよ」
大きく笑った小百合は起き上がった光男に肩を貸し、歩幅をあわせるようにゆっくりと大通りの人波に溶け込んだ。
DAMA KURA 御手洗孝 @kohmitarashi
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