第9話
「なっ! ね、猫が喋っている?」
「あら、喋っちゃおかしいかしら? ここは人外の者が集まる場所よ」
「え?」
左の蒼い瞳を少し瞑り、金色をした右の目を大きく見開いて興味津々といった感じで見てくる白猫に言われ、小百合は少し体を引いて聞き返した。
「い、今なんて?」
「ここは人外の者が集まる世界って言ったのよ。猫が喋ることに驚く者なんていない。驚くのは貴女が人界の人だからよ」
「人外って、人以外の者が住む世界の話? でも、あそこにも向こうにも、それにその女の子だって」
「貴女ってよっぽど物事を気にしない性格なの? 普通歩きまわって見て、喋っていたのならここの住民ってどこかおかしいって気付くと思うけど」
「あ、当たり前でしょ、気付いているわよ。なんだか少し気持ち悪いというか、気味が悪いって事ぐらい」
「なら、納得したでしょ。アレは人のように貴女の目には映っているけれど、違うのよ。人のように見えているのは貴女の概念がそう見せているだけよ。言われなきゃ駄目だ何て貴女って鈍感なのね」
「今のあたいにはそんなことより重要なことがあるから見てみぬ振りでいるだけよ」
「なるほど、貴女の性格はなかなか事務な仕事に向いている感じね。じゃぁ、少しは気にした方がいいわ。ここは人外の者が集まる場所で、曲者が多いってことをね」
「例えばあんたをつれているその子みたいにってこと?」
「フフ、あたしじゃなくて、彼女を見るなんて、貴女、結構見る目はあるのね」
驚いたようにそして、少し嬉しそうにそういった白猫は抱きかかえている少女の腕からひょいと飛び降り、小百合の膝の上に腰掛ける。
白猫がいなくなった少女は一言も発することなくスタスタと歩いていってしまった。少女を飼い主のような存在かと思っていた小百合は首を傾げて白猫を見つめる。
「あぁ、気にしないで。アレは別に飼い主ってわけじゃないわ。移動するのに歩くのが面倒だったから運んでもらっただけ」
「あの子もおかしいと思ったけど、あんたも十分おかしいわね。あんた、一体なんなの?」
「あたしはセイラム、魔術猫よ。遠い昔に悪い魔女に魔法をかけられた黒猫。今は白猫だけどね」
「だから喋れるの?」
「この世界だから喋れるの。あたしが例えば人界に行ければ私の言葉はきっと貴女に伝わらないわ」
「でも、ここにいる間はあんたの言うことが分かるわけよね、しかも、あんたはこの世界のことを良く知っている」
「それがどうかした?」
小百合の言葉に首をかしげたセイラム。そんなセイラムを小百合は腕に抱き上げ、立ち上がって階段を下り始めた。
「ちょうどいいわ、ちょっとあたいにこの街を案内して頂戴」
「あら、あたしでいいの?」
「あんたはちゃんと話が通じるもの。他の連中はダメ。ろくな答えが返ってこないし、返ってきても信用できる物は少ない。ここの連中はやたらと嘘をつきたがる」
「あら、凄いわね。貴女って結構見る目があるわよ」
「当たり前よ、それが商売だったんだから」
「あたしの言葉を信じる理由は?」
「信じてないわよ。ただ、あんたがここの連中の中でまだマシだっていうだけ。あんたの言ったことを信じるか信じないかはその時のあたい次第」
「いいわね、貴女、人界の者の中でも面白いわ」
「嬉しくない褒め方ね。まぁ、それも今はどうでもいいことね。まずはこの妙な街を案内して」
「OK、貴女を気に入ったから案内してあげる」
色の違う左右の瞳を細くしたセイラムはすっかり暗くなって、街灯がつき始めた街を歩かせ、噴水広場にやってくる。
「この街はこの噴水広場を中心にして広がっているから、ここから説明していくわね」
にやりと微笑んで、セイラムは噴水広場に面した建物から説明を始めた。
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