第20話

 初めは戸惑っていた小百合も学習能力が高く、数ヶ月もしないうちに仕事を覚える。持って生まれただろう何が必要なのかを見極める目が鋭く、素質があったのだとしか思えない成長振りだった。

「そう、小百合は優秀だった。何時からだろう傍にいてくれることが嬉しいじゃなく、鬱陶しいになったのは。アイツが笑顔でうまく人を引っ掛けてくれば来るほど俺は」

「クスクスぅ、それは嫉妬だねぇ」

 ふいに聞こえたドゥシェの声に驚き見上げれば、街路樹の立派な枝振りの一つに腰掛けて笑う姿が見える。

「一体何をしに来たんだ」

 眉間に皺を寄せ、睨みつけるようにドゥシェを眺めたその視界、空の中に不思議な街並みの中を走り回る小百合の姿がぼやけていた。

「さ、小百合?」

「あぁ、そうだよぉ。あれは君が探している君の連れだぁ」

「どうして空を走り回っているんだ、アイツ」

「残念、アレは空じゃないぃ。あまりにミッチーが連れのことを想っているから私が特別に見せてあげているだけぇ」

「って言うことは、小百合は別の場所に居るのか」

「う~ん、別といえば別だけどぉ、別じゃないといえば別じゃないぃ」

「また、その物言いか。いい加減回りくどいのは止めてくれ。小百合は何処にいるんだ!」

「おぉ~、怖いぃ、怖いぃ」

 怒鳴りつけてくる光男にそういったドゥシェだったが、その様子は全く怖がって居ない。からかう様なその態度に光男は持っていた鞄をその場において、ドゥシェの居る木にしがみついた。

 頭脳主義な光男、体力筋力はそんなにない。木登りもろくに出来ないにも関わらず、必死で登ろうとする光男を笑ってドゥシェは降りてくる。

「彼女の事となると必死だねぇ。その必死さに免じて教えてあげよぉ。彼女が居るのはここぉ、まさにミッチーが今居る場所だよぉ」

 ハァハァと肩で息をしながら木から飛び降りた光男は眉間に皺を寄せたまま首をかしげた。

「貴様、頭は確かか? 何を言っている?」

「だからぁ、君が居る場所に実は君の連れも居るってことだよぉ、ミッチー」

「何処にもいないように見えるが」

「そう見えているだけぇ。ここはミッチーの街だからぁ、小百合の街を見ることが出来ないぃ」

 ドゥシェの言葉に光男の顔つきが変わった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る