第19話
街を歩く光男は何処かしら違和感を覚えていたが、ともかく小百合を探すのが先だと虱潰しに道をゆく。
「ったく、あの馬鹿。何処に行ったんだ」
酷く汚れて道でうずくまり今にも死にそうな小百合を見つけた時、自分の昔の姿と重なって思わず声をかけてしまった。使えるようにと仕込みに仕込んで、相棒として稼ぎが安定してくると口うるさいその存在が鬱陶しくなる。稼ぎが増えれば増えるほど、分け前を与えてやるのが惜しい気がして、相棒であるけれど邪魔な存在に思えていた小百合。しかし、今は、そんな小百合に会いたいと思っていた。
「そうだ、俺はどうかしていた。小百合だけが俺が俺で居られる場所だったのに。アイツが居なけりゃ、金を手に入れる意味は無い」
ここでは自分の持っている金に対した価値は無く、紙切れ同然。しかし、それがかえって光男の目を覚まさせる。身の丈に合わない金を持つことに意味が感じられなくなった。どうして自分はこんなに金を欲したのか、その意味を思い出すと同時に小百合と出会って苦労していた頃の見失っていた自分を見つける。
そして、色々助けてくれてはいたが、ドゥシェのように含みを持った言い方をされる事がこんなにも苛立ち、気分を害するのだと初めて知り、あけすけに自分に文句をぶつけてくる小百合がありがたくすら感じた。
昔から、人の言葉にすばやくそれらしい答えを返事するのが得意で、それが嘘でも真実と錯覚させるのが楽しかった。騙している、そういうつもりは一切無く、ただ騙される人を見るのが楽しく遊んでいるという感覚。しかしそれは災いを起こし、たった一人きりとなって全てを失った。
だが、そんな状況を救ったのも自分をどん底に突き落とした技。やがてこの得意技で金を稼ぐようになった。
当然、その頃には楽しんでいるのではなく、確実に騙すという様相に変わる。生活に困ることは無くなったが、光男の孤独が無くなることはなかった。初めはそれでも別に構うことはなく、かえって一人のほうがいいと思っていたくらい。しかし、数年経てば孤独が寂しさに占領されていくようなる。小百合と出会ったのはちょうどそんな時だった。
声をかけ、自分を見つめてくる大きく澄んだ瞳は寂しげで、その瞳に映し出されている自分の姿も同じ。一人の方がずっと気が楽なはずだし、縛られる物が無い方がいいのに、光男の口からは「一緒に来ないか」という言葉が出ていた。
みすぼらしい少女をホテルに連れて行き、体を綺麗にするようにいって光男は買い物に出かけ、少女の身の回りの物をそろえる。帰ってきた時、泥だらけの少女は見違えるほどに可愛く変身を遂げてバスローブを羽織って部屋の隅に居た。買ってきた服を少女に放り投げて、着替えるように言うと、少女はバスローブを脱いで光男の方を向く。
「何やっているんだ?」
「あたい、お金もないし、何にも持ってないから」
「で、脱いだ理由は?」
「素性の知れない、訳のわからない奴に何も無く親切にするなんて無いって事ぐらい分かる」
「あぁ、なるほど。その考えはたいしたものだが、それで逃げるならまだしも差し出すとはね。一つ聞こう。君は俺に抱かれたいのか? どんなことをするのかって言うのは分かっていてやっているんだろう?」
「わ、分かっているわ。でも、抱かれたいかって聞かれてあたいに選択肢があるわけじゃないもの」
「選択肢云々じゃない。抱かれたいか抱かれたくないか、単純な回答を求めているんだ」
「あんたは親切だし、見た目も悪くないから嫌じゃないけど。よくわかんないよ」
「よくわからんのなら抱かれたくないってことだ。抱かれたいと思えばどんな状況でも抱いて欲しいと思うからな。抱かれたくないなら。俺にそんなことは今後一切するな。もちろん、他の男にもだ。お前の考えは正しい。たいていの男は下心があってこういうことをするからな。だからこそ差し出すことはするな。自身の立場が悪くなるだけだ」
「で、でも、あたい、本当に何も持ってない」
「分かっている。俺もボランティアをやるつもりは無い。お前には俺の相棒になってもらう。仕事はなるべく早く覚えろ」
「し、仕事?」
「俺の職業は詐欺師だ」
「詐欺師? それって犯罪じゃ」
「あぁ、そうだ。俺は犯罪者だ。嫌ならここから出て行って警察にでも何でも行けばいい」
「……、ううん、行かない。あたいも同じようなものだもの、分かった、覚えるわ仕事。だからつれてって」
「俺は光男だ。君の名前は?」
「小百合」
意外にも少女の瞳はしっかりとして、決意のような物がそこにあり、何かあったのだろうと光男に想像させたが、光男はそれ以上小百合に何も聞かなかった。
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