第21話
残った体力を全て使うように走り回った小百合は再び先程の場所に戻って来る。
結局どんなに走り回っても噴水広場は見つからず、瞳に映し追いかけている光男の場所に行くことも出来ない。
「光男、何処にいるのよ」
「馬鹿ね、どんなに探しても貴女の探している人には会えないわよ」
膝に手を置き、腰を曲げて地面を見つめる小百合の視界に白くうねる尻尾が入り、小百合の瞳はそちらへ動く。綺麗に足を並べて座っていたのは白猫のセイラム。時たま小百合に視線を向けながら前足で顔を洗っている。
「セイラム、どうしてここに居るわけ」
「街中をヒーヒーハァハァ面白い顔をして走り回っている貴女を見つけてね。面白そうだからつけていたの」
「悪趣味ね」
「結構面白かったわよ。会えるはずがないのに必死で探し回って慌てている姿がね」
明るく声を上げて笑うセイラムの姿に、少々機嫌を損ねた小百合。しかし、会えるはずがないというセイラムの言葉が気にかかり、顔を背けてセイラムに聞いた。
「会えるはずが無いだなんてどうしてセイラムに分かるのよ。確かに噴水広場に光男を見たわ。あそこに行けば会えるはずよ」
「クスクス、本当に幸せな頭をしているわね。あのね、どんなに見えていて、そこに行こうと頑張ってもこの街は貴女の街だから、その光男とかいうやつには会えないのよ」
「あたいの、街?」
「そう。ここは小百合の街なのよ。貴女の本質、貴女の性格、貴女の思考、全てがここに集まっている」
「全てがここにって、それじゃまるでここがあたい其の物みたいじゃないか」
「この街で過ごしていて貴女だってちょっとは違和感を覚えたんじゃない? この出鱈目なのにどこか秩序があって、いい加減だけど真面目。どことなく自分に似ていると思っていたんでしょ」
小百合はそういわれて黙り込んでしまう。セイラムが言った通り、確かにどこか自分のような気がしていた。でも、実際にこれが自分だといわれるとすんなりと受け入れることは出来ない。
「ここは人外の街なんでしょ」
「いやぁね、それは人外の者が集まる世界ってだけ。ここに居る連中は貴女が感じているような『街』に存在しては居ない。でもちゃんとここに存在している。ここには彼らの世界があるの。ただ、彼らの世界は明確な形を持っているわけじゃない。だから例え貴女の瞳に建物の中に存在しているように見えても、彼らからすればなにもない所で普通に生活しているにすぎないわ。今こうして『街』として形作られているのは貴女がここに居るから。貴女という理があることで形作られた世界が今こうして貴女だけの瞳の中で見えているわけ」
「ちょ、ちょっと待って、頭がついていかないわ」
「別に難しいことじゃないわ。彼らにとっては、全ての建物も、階段も、水も、木も何もかもない世界で、全ては貴女にだけ見えているの」
自分にだけ見えている、そう言われても理解が追いつかない。小百合には騙し絵のように見えるこの街、それは小百合だけが見ている風景。
(こんな街なのはあたいの影響、あたいだけに見えている風景。じゃぁ、光男は……)
小百合は側に行こうとずっと追っていた光男の姿を瞳に映してはっとした。
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