DAMA KURA

御手洗孝

第1話

「おい! 早くしろ。こののろま!」

「待って、待ってよ光男。あんたは男だけどあたいは女なんだよ。歩幅が違うんだから」

「逃げている時に男とか女とか関係あるか! 小百合が捕まれば俺も捕まるんだ。さっさと走りやがれ。走れないならそこで死んでくれ」

「薄情をお言いで無いよ! どうしてあたいが死ななきゃなんないのよ」

「フン、お前は根性がねぇからな、すぐにサツに喋るだろ? 死ぬ根性も無いなら殺してやるぜ」

「ハッ! そんな度胸があんたにあるもんか」


 月が眠そうに半分ほど瞳を閉じている夜。

 海の見える小さな街でこそこそと詐欺を働いていた、自称天才詐欺師の光男とその相棒を務める小百合。

 地道に小さな詐欺で稼いでいた光男だったが、欲が出てやってはならないことをやってしまった。

 顔見知りばかりの小さな街ではその足はつきやすい。

 欲は大きくなれば自らを滅ぼす。欲深な自称天才詐欺師は警察に追われることになってしまった。

 そう、今は闇にまぎれて警察の手から逃げる途中。

 ハァハァと肩で息をしながらやっとのことで光男について行っている小百合は、目の前の薄情な男を少々睨みつけていた。

 小百合が相棒を務めるようになってから思っていた事、それは、光男には思いやりが無く、いつだって自分中心だという事。

 今も相棒であり女でもある小百合の手をとって逃げるのではなく、いらつきながら怒鳴りつけてくる。

 「こんな男」と嫌気が差しつつあったにもかかわらず小百合が相棒を解消しない理由はただ一つ。

 光男が小百合の手を取ることなく、両手で大事そうに抱えている鞄の中身の為だった。

 今まで分け前としてもらってきたのは詐欺師の相棒として稼いだはずの金額の十分の一程度。

 小百合は手に入れた金の総額を知らないだろうと光男が分け前を渋っているはずなのだ。

(あたいだって馬鹿じゃない。稼いだ金額の大体が分からないはずないじゃない。カモを光男に紹介するのはあたいの役目なんだから)

 小百合はずっと、光男を何とか騙して稼いだ金を全て持ち逃げようと考えていた。

 ただ、光男は全く隙を見せず、日々どうやって光男から金を奪おうかと考える日々。

 そんな時、光男の手には今までの倍以上の金が入り込んだ。

 今、光男はその全額を持って逃げている。

 ゆえに小百合はどんなに罵倒されようと光男に付いて行っていた。

 ここで光男と別れてしまっては数千万のお金が自分の手には入ってこないことになる。それだけはさせてなるものかと小百合は必死だった。

 光男は少々小百合の存在が鬱陶しいと感じている。

 こうして警察に追われることになったのは、半分は小百合のせいでもあったからだ。

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