第30話「激突!高野山4」

寂亮は、闇の中で呻いていた。

―道摩め必ず殺してやる。

寂亮の右肩は粉砕骨折している。

道摩に全力で鎖を引いた所を、その力を逆に利用され、

分銅を投げ返されたのだ。

冷静さを欠いた寂亮に勝機は訪れるはずもなかった。



寂亮を退け、闇の中を疾走する道摩は胸騒ぎがしていた。

慧春尼の法力を近くに感じる。

その慧春尼の居る目的地に近づく程、胸騒ぎが大きくなっていく。

道摩はその胸騒ぎの正体を掴みあぐねていた。


数台の黒いワンボックスカーが、高野山の山中に乗り入れられている。

その周辺では英語が飛び交い、数人の男達が蠢いている。

「ハンニバル大佐。準備が整いました」

黒ずくめの格好の男の一人に声を掛けられ、

ハンニバル大佐と呼ばれた男は頷いた。

短く刈り込んだ頭と、角ばった大きな顔。

鋭い眼光と引き締まった体躯は、歴戦の戦士であることを物語っている。

「クソ坊主どもが」

ハンニバル大佐は苦々し気に吐き捨てた。

先発隊からの通信が途絶えた。

何者かと戦闘に入ったのは辛うじて分かっているが、

その後の連絡がないのだ。

リストウォッチに仕込んだGPSは、ほぼ全員が同じ位置に居る事を示している。

バイタルサインも、リストウォッチから読み取れるが、

何とか全員生存はしている様だ。

だとすれば、気絶、あるいは全員がそこで拘束されているということだ。

樹々が邪魔をしていて、偵察用のドローンも飛ばせない。

わざわざ、戦闘力の低いMP5をゴム弾仕様にして使ったり、

兵士達からコマンドーナイフを取り上げて、出来るだけ様にした事が裏目に出た。


高野山には、たくさんの外国人観光客が宿坊で宿泊している。

殆どが欧米諸国から来ており、僧侶の生活を体験する為である。

彼ら観光客に気付かれない様に作戦を遂行しなければいけない。

銃声を抑える為には、M-16の様なアサルトライフルはサイレンサーを付けても、

銃声が高野山全体に響き渡ってしまう。

その為に、主に暴徒鎮圧や夜間の都市制圧用に使われるMP-5というアサルトライフルに装備を変えた。

サイレンサーを付け、弾丸をゴム弾に代え、弾速も落とすように仕様を代えた。

これならばほとんど銃声も出ない。

また、裏高野の退魔師達と戦闘になった時に、

彼らを出来るだけ殺さない様にする為でもある。

「同盟国」の人間をむやみやたらに殺す訳にはいかないし、

だが、状況を鑑みてハンニバル大佐は作戦を諦めざるを得なかった。

「ふう」

ハンニバル大佐は一つ深く溜息ついた。

―こういうやり方はどうにも性に合わん。失敗だな。プランAは。

「デルタ2!デルタ2!作戦本部ハンニバル大佐だ。これより、Bを実行する」

―軍人は軍人らしく行こうじゃないか。

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