第18話「道摩」

道摩は夢を見ていた。

自身では覚えていないが、前回と同じ夢だった。

燃え盛る炎の中から見つめる、第三の眼。

夢の中に居る道摩には、がなんであるのかが分っている。

目覚めなければ。

道摩は眠りながらそう考えた。

すぐに起きてこの夢を覚えておかなくては・・・

道摩は眼を覚ました。

もう少し・・というところで夢は形を失い、

道摩は夢の内容を思い出すことが出来なかった。

疲労がそうさせたのか、眠りが浅かった。

口裂け女との対決は、道摩の体力と気力を限界まで使わせた。

一人の生身の人間の中に、玄武という聖獣と毘羯羅大将びからたいしょうという神の化身を同時に宿して闘ったのだ。

己の自我を保ち続けるだけでも、今までの道摩で有れば困難だったであろう。

失敗して自我が保てなくなれば、いわゆる状態になり、

そのまま精神も肉体もボロボロになる。

だが、道摩は慧春尼からの提案に驚きはしたものの、とは思わなかった。

道摩は自分の実力を過大評価したりはしない。

勿論、過小評価もしない。

道摩が生業とする退魔師の世界では、そのどちらもが死を招くことになるからだ。

やった事の無い術にぶっつけ本番で臨む事もほとんどない。

慧春尼に促された部分は有る事は事実だが、それでも根拠のない自信が有った。

それは、今までにない法力を自分自身に感じていたからだ。

朝からだ。

それは、この事件を引き受けると決めた朝。

内容は覚えていないが夢を見たあの日である。

道摩の法力が底上げされた日。

道摩はそう思っている。

しかも、だ。

道摩にとって経験した事の無い事であった。

―寝て起きたら強くなっている・・まるで漫画だな。

道摩の口許に自然と皮肉めいた笑みが浮かぶ。

もし本当にそうならば、今まで積んできた厳しい修行は一体何だったのか。

―バカバカしい。

道摩は考えるのを止めた。

答えにたどり着く術が無い。

時間の無駄だと思った。

強くなったのならば、それで良い。

理由は関係ない。

その時道摩はそう思った。

だが、後日それが大きな間違いであると気付く事になるとは、この時の道摩には知る由もなかった・・・

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