第19話「黒い服の女その1」

道摩の体力の回復の為に、一日空けて再探索となった。

次のターゲットは、桜の樹に出る黒い服の女である。

三人組の少年達が遭遇し、一人が不審死を遂げている。

ターゲットの選定は慧春尼が行い、道摩に伝えられ、

慧春尼と道摩は、正午に公園で落ち合う事になっていた。

道摩が公園に着くと既に慧春尼が待っており、公園の警備に当たっている警察官達の視線を一身に浴びていた。

その美貌は法衣であろうと、剃髪していようと、いささかも損なわれる事は無かった。

真夏の照り付ける様な太陽の下でも、慧春尼の透き通る様な白い肌は汗一つかいていない。

道摩は市川警部補と一緒に居る慧春尼を見つけると、軽く頷いた。

市川警部補は、慧春尼とは対照的に大汗を搔いており、ひっきりなしにタオルで汗を拭っていた。

慧春尼は深々と頭を下げて、道摩を出迎えた。

「道摩さん。一昨日はお疲れ様でした。昨日はよく眠れましたか?」

「ああ。それよりも、今日も何かアドバイスが有るのか?」

「ええ。と言っても、今日は毘羯羅大将びからたいしょうの神降ろしを先日と同じく使っていただきます。今回は玄武無しなので、前回ほどの疲労は無いでしょう」

「そうか分かった」

「ふふふ。今日は何も聞かずに素直に従って下さるんですね」

「どうせ聞いても、はぐらかされるだけだからな」

「いや、あんた達が生きて戻ってくるとは思わなかったよ」

市川警部補は自分だけが蚊帳の外に居るのが耐えられず、会話に参加しようとしていた。

「確かにとんでもないだったよ」

「でももう、出ないんだろう?あんたがたが、退治したから」

「恐らくね」

「恐らくって・・」

「確証は無い。なんなら警部補、もう一度公園に入って確かめてみるかい?」

市川警部補は、慌てて首を振った。

「道摩さん。では、これを」

「ああ。借りるぜ」

慧春尼が、前回と同じく般若心経がびっしりと書き込まれた三鈷杵を道摩に渡した。

道摩はそれを受け取り、慧春尼に声を掛けた。

「行くか。大阿闍梨」

「はい。道摩さん」

慧春尼と道摩は、散歩にでも行くような調子で歩き出した。

市川警部補は、そんな二人を大汗を搔きながら何とも言えない表情で見送った。

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