第17話「道摩と口裂け女その3対決」
道摩の元々の出は僧侶であった。
それも、慧春尼と同じく真言密教を学んでいた。
だが、道摩の仏教は、自身の知的探求心から来るもので有り、
禁忌とされた外法や、陰陽道も学び実践した。
高野山側から見れば、いわゆる破戒僧で有った。
毛嫌いされているというのはそこに理由があった。
しかも、法力は日本でもトップクラスで有り優秀な退魔師でも有ったのだ。
今回は、慧春尼の提案で十二神将を使役するが、
陰陽道では十二天将を使役する。
有名なところで言えば、朱雀や白虎、玄武、青龍などがそうである。
一方仏教では、十二神将はメンツも役割も全く違う。
薬師如来を守護し、有名なところで言えば、因達羅大将(帝釈天)や宮毘羅大将(
道摩は十二天将、十二神将どちらの力も使う事が出来る。
普通はそんな事は出来ないが、道摩という法力の高さを持つ破戒僧ならではの能力と言えた。
だが、そんな道摩でも慧春尼の提案には驚かされる事になる。
「道摩さん準備はよろしいでしょうか?」
「ああ。だが、あんたとんでもない事を思い付いたな」
「ふふ。道摩さんにしか出来ない特別プランです」
翌日の昼、公園に着いた慧春尼と道摩の二人は、
すぐさま口裂け女が出た場所に向かった。
見張りの警察官達が、慧春尼の美貌に魂を抜かれた様な表情で見送る。
市川警部補だけが、思案顔だった。
二人の打ち合わせの会話についていけなかったのである。
だが無理もなかった、常人に付いていける会話ではそもそもないのだ。
二人が公園に入って数分後、口裂け女が出た場所に着いた。
すると、ぼんやりと人影のようなものが、二人の数メートル先に現れ始めた。
「あれが、口裂け女か?」
道摩がそう口にした瞬間だった。
人影は急速に形を整え、映像で見た口裂け女になった。
「後三玄武水神家在子主亡遺盗賊凶将急急如律令」
「 オン・ビカラ・ソワカ急急如律令 オン・ビカラ・ソワカ急急如律令」
それを見た道摩はすぐさま二つの異なる、呪《しゅ》と真言を唱えた。
「道摩さんこれを」
道摩が真言を唱え終わると、慧春尼が何かを道摩に手渡した。
「道摩さん。来ます!」
道摩は慧春尼のその言葉が終わらない内に駆けだしていた。
口裂け女に向かって。
一方の口裂け女も、道摩目掛けて凄まじいスピードで駆けだしていた。
その両手には陽光を跳ね返す、大きな柳葉包丁が握られている。
みるみる両者の距離が縮まる。
両者が激突するかと見えた瞬間、キーンと美しい金属音が辺りに響き渡った。
そのまま何度も美しい金属音が辺りに響く。
道摩の両手には、慧春尼が渡した
三鈷杵は仏具であり、聖なる武器でもある。
だが、口裂け女は剣道の実力者である警察官からの警棒での攻撃をものともせず、
両手を一刀のもとに切り落とし、サイキッカーである探偵の、無数の包丁での攻撃すら撃ち落とし、こちらも頭頂から真っ二つにした。
到底渡り合えるものではないと思われた。
しかし、道摩は互角以上に渡り合っていた。
口裂け女のあちらこちらにダメージが見えるのだ。
それは血が出ている訳ではなく、道摩の三鈷杵が当たった場所が文字通り無くなっていくのだ。
しかし、腕や脚の一部が失われても口裂け女の攻撃は止まない。
それどころか、包丁の一部は道摩に何度もヒットしていた。
だが、道摩はかすり傷一つ負っていなかった。
「残念ながら効かないぜ。玄武を使役して俺自身を依り代にしているからな」
道摩はそう言うと口裂け女の頭上からの攻撃を躱し、思い切り踏み込んだ。
渾身の力を込めて口裂け女の頭上に三鈷杵を振り下ろす。
すると、口裂け女は頭頂から真っ二つに裂けていくように見えた。
二つになった口裂け女は、なんの痕跡も残さずにそのまま消滅した。
「凄い!やりましたね道摩さん」
「ああ。あんたのアドバイスと、こいつのお陰だがな」
道摩はそう言って、三鈷杵を慧春尼に返した。
「いえいえ。十二天将と十二神将どちらも同時に使役して使う事が出来る、道摩さんだからですよ」
「しかしよく思い付いたもんだ。守りの玄武を使役するのは分かるが、まさか自分自身を依り代にするだなんてな。しかも、
玄武とは亀の化身であり、守りの象徴である。
道摩は通常、紙を依り代に使役するその玄武を、自分自身を依り代にして式神と一体化したのであった。
そして同時に自分自身に、
毘羯羅大将の武器は宝剣と三鈷杵である。
その二つの武器を使い、七千の夜叉を率いて闘うとされている。
神の戦闘能力を一時的に借りたのだ。
使える宝剣などは流石に簡単には手に入らないが、三鈷杵なら入手はさほど難しくは無い。
その三鈷杵には、慧春尼が法力を籠めた般若心経がびっしりと書き込まれていた。
「大阿闍梨。何故、毘羯羅大将なんだ?」
「一言で言えば相性です」
「口裂け女とのか?」
「いえいえ。道摩さんとのですよ」
「俺と?毘羯羅大将が?」
「ええ。思った通り。抜群の相性でしたよシンクロ率が高くなければ、いくら神降ろしとはいえ力を十分に発揮出来ませんから」
「それはそうだが・・そんな事が分かるものなのか?」
「ふふふ。カンですよ。女の勘」
「勘だと?おい。こっちは生身で命懸けで闘っているんだぞ」
「でも、勝ちました。私の作戦で」
「呆れた女だ・・・」
道摩は童女の様に笑う慧春尼にそれ以上何も言えなかった。
そして、道摩はその場に座り込んだ。
途轍もない疲労が道摩を襲い、立っていられなくなったのだった。
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