第21話「チャクラ」
道摩は帰宅するとすぐに、呼吸法を始めた。
眼を軽く瞑り結跏趺坐のまま、ゆっくり深く息を吸い、同じだけ時間をかけ同じ分息を吐く。
それを何度も繰り返す。
繰り返していく内に、下半身から気が上がってくる。
へその下の辺りいわゆる「丹田」と呼ばれる辺りに気が昇ってくるのに、
今までの倍以上のスピードで気が昇ってきている。
そのまま呼吸法を続け、胸、喉の辺りにまで気が昇ってくる。
喉は第五のチャクラが有るとされる場所で、今の道摩が開くことが出来る限界でもあった。
道摩は、気が昇るスピードの速さに困惑した。
早過ぎるのである。
精神状態や体調などでもスピードは変化するが、
こんなに早く昇ってくるのは初めてであった。
考えられるのは、レベルアップである。
道摩の力が上がった為に、気の上がり方が早くなったのである。
これで、法力が上がった事がどうやら気のせいでは無い事が分かった。
チャクラは法力の源であり、生命エネルギーの源でもある。
道摩は開くことが出来ないが、第六のチャクラが額にあり、頭頂にあるとされる第七のチャクラまで開けば悟りを得られると言われている。
だが第六のチャクラを開くだけでも超人的な力を得られ、その人間が持つあらゆる能力を限界以上まで引き出せる様になる。
道摩の考えでは、第五のチャクラ以上を開いた人間は、ごく僅かであろうと考えている。
ややもすれば居ないかもしれない。
第七のチャクラについては、悟りが開けるとなれば釈迦以外には居ない事になる。
常人にはチャクラを一つ開く事さえ困難であり、大概は修行を積んでも一つも開きはしない。
チャクラを開く為の動画などがあるがそんな物は全て偽物で、そんな簡単にチャクラが開くわけがない。
道摩は瞑っていた眼を開けて、目の前の床に置かれた三鈷杵を見つめていた。
三鈷杵には慧春尼の法力が籠められた般若心経が、びっしりと書き込まれている。
「般若心経・・・・」
道摩は口に出して呟いた。
―そう言えば・・何故、般若心経なのか・・・
三鈷杵は仏具で有り同時に武器である。
但し、三鈷杵が仏具で有ってもだからといって武器としての特別な能力が有るわけでは無い。
言ってみればただの金属の塊である。
それが道摩の法力と、慧春尼の法力も受けているとはいえ、効果が有り過ぎる様な気がしていたのだ。
まるで存在が無かったかの様に消失していくからである。
今迄の妖物や魔物は、退治すれば死体が残ったからだ。
或いは、痕跡が残るのだ。
物が時を経て、変化して魔になれば力を失った時に元に戻る。
以前、道摩が退治した妖魔は、古びた鎌が変化したモノで、退治した途端に元の古い鎌に戻った。
今回は、三鈷杵が当たれば消滅する。
だが、道摩は疑問に感じていると同時に、頭の、いや、心の奥底で般若心経にこそ答えが有ると理解していた。
決して勘などではなく、もっと違う、何か。
―そう。経験に基づくものだ。だが、こんな経験は初めてのはずだ
道摩は混乱した。
答えが分かるのに、何故答えが分かったかが分らないのだ
―もう少し、もう少しで何かがつかめそうなのに・・・
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