第22話「夢」

道摩は夢を見ていた。

炎の中に包まれる人物が居る。

その人物は僧衣である。

大きな薪を組んだステージの様な所に結跏趺坐し、

燃え盛る炎の中で悠然としている。

僧は女の様であった。

とても美しい。

それだけは分かった。

その女に道摩が何かを問いかけている。

熱かろうとか、大丈夫か、とか、そんなその場に相応しい様な、それでいてどこか間の抜けた様な事を問いかけてはうろうろしている。

そんな道摩を嘲笑うかの様に火勢が一気に強くなる。

巨大な火の塊が天を衝く。

あまりの火の勢いに、火中に居た女の姿が見えなくなった。

轟音を立てて薪で組まれたステージが崩れていく。


そこで道摩は眼が覚めた。

道摩は泣いていた。

夢の内容は覚えていない。

泣くなどという事はいつぶりだろう。

ひどく悲しく、切ないものが胸中にこみあげている。

夢の内容を覚えていないのに、その夢に対する感情だけが残っている。

今までに経験した事のない不思議な体験であった。

道摩は軽く頭を振り、胸中にある感情を追い払おうとした。

―らしくないな。

自身を嘲ると、呼吸を整えて自身の気に乱れが無いかをチェックする。

―問題なさそうだ。

道摩はシャワーを浴び身支度を整えた。

今日は、退治だ。

市川警部補を始め、警備に当たった警察官、新聞記者、県知事、市長と数十人が目撃しており、箝口令が敷かれている。

十メートルを超える巨大な鯉の姿で、人間の顔が付いていたという。

そいつが池から飛び出し、神主を反対側の池に消えたのだ。

―面白い。

道摩の口許に不敵な笑みが浮かぶ。

先程までの不思議な感情は消え失せていた。



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