第27話「激突!高野山1」

道摩は闇の中に居た。

有るのは、月の光と星明りだけで有る。

ほんの少しの風が、道摩の頬を撫でる。

その風に起こされたかのように、道摩は瞑っていた眼を開けた。

高野山の山中、高い杉の樹の太い枝に道摩は結跏趺坐のまま瞑想をしていたのだ。

公園での最後の怪異、赤いマントの男を斃した道摩で有ったが、

公安の特務課から、事件の後始末は特務課のみで行うとの知らせが入った。

依頼料は全額既に振り込まれていたものの、道摩は腑に落ちていなかった。

その為に今回の事件の犯人と思われる、量子物理学と量子コンピュターの第一人者である広瀬教授の研究所に赴いた。

だが、研究所は閉鎖されていた。

大学の話によると、広瀬教授は長期休暇の願いが出ていて、

復帰は未定との事であった。

念の為、研究所にも忍び込んでみたが、研究資料などは持ち去られた後で有った。

事件の関係者といえば、他には慧春尼しかいない。

なんらかの力が働いて道摩を事件から遠ざけた。

その理由を慧春尼が知っていると考えたのだ。

研究所に忍び込んだ後、直接慧春尼から問いただす為に高野山に赴いたのだ。

高野山に着くと慧春尼と対決する可能性を考えて、道摩は今いる杉の樹に登って

瞑想を始めた。

第6のチャクラを発動させ、準備を整えて臨むつもりであった。

眼を開けたのは、丁度そのチャクラが発動したところで道摩の超感覚に引っ掛かる気配が有ったからである。

加えて道摩は鍛錬によって夜目も利く。

それは道摩の居る杉の樹の前方と、後方から来ていた。

前方30メートル程先には、たすき掛けをした僧形の男達が5人見える。

手には各々樫で出来ているであろう、杖を持っている。

高野山の人間だろう。

―俺を探しに来ているのか?

後方から来る気配は正に今、道摩の真下を通過し数メートル程の所で止まり横一列になって散開した。

淀みのない動き方で、よく訓練されているのが分かる。

20人の武装した人間であった。

頭上に居る道摩には誰も気付かない。

道摩は男達を観察した。

ノクトビジョンスコープに、手にはサイレンサーが取り付けられたMP5アサルトライフルを持っている。

―何者だ?戦争でも始めるつもりか?

道摩は装備を見て、静かにリュックから何かを取り出した。

武装した連中が数メートル進めば、恐らく僧達に気が付く。

もし戦闘になれば僧達に勝ち目は無い。

道摩は心気を凝らして超感覚の眼を広げた。

今いる5人以外にも、山を降りてくる人間が居る。

今、近くに居る僧を含め、全部で100人。

先に、武装した男達の一人が僧に気が付いた。

無言で銃口を僧の一人に向けた。

道摩はそれを察し、木の上から何かを投げた。

道摩の手から放たれた物は、武装した男の頸椎の辺りに命中し、男はその場に倒れ音を立てた。

倒れた男の左右に展開していた男達が、その音に気が付いた。

道摩はその左右の男達にも何かを投擲した。

先程の男同様に、二人の男たちは倒れた。

武装した男達が歩みを止めて、一斉に地面に伏せた。

倒れた仲間を見ていた者がいたらしい。

ヘルメット内の無線で狙撃されている事を告げた様である。

道摩の手許には、先程投擲した武器があと一つ有る。

それは、銀製の輪であった。

戦輪―チャクラムである。

本来のチャクラムはリングの淵が全て刃になっている。

チャクラムのどの部分が当っても当たった場所が切り裂かれる。

だが、道摩のチャクラムは刃先を潰してある。

相手をなるべく殺さない為だ。

その代わり重量を少し増してある。

道摩が本気で投擲すれば、当たった箇所の骨を粉砕する事が出来る。

道摩は、音もなく杉の樹の枝から飛び降りた。

伏せてくれたのは、道摩にとって好都合であった。

素早く一番近くにいる男に向かって、近づき手刀で、頸椎に打ち込み気絶させた。

二人目を同じ方法で気絶させ、三人目に向かう途中で気が付く者が出た。

立ち上がり、銃口を道摩に向けようとした。

7~8メートル離れていたが、道摩は最後のチャクラムを投げ立ち上がった男の喉に命中させた。

男が立ちあがった事で、その他の全員に気付かれ全員が立ち上がった。

だが、横一線に展開しているせいで、その直線上にいる道摩を撃つことが出来ない。

同士撃ちになってしまうからだ。

それに気が付いた何人かが、位置を変える。

だが、その間にも数人が道摩によって叩き伏せられ気絶していた。

とてつもないスピードである。

暗い山中で、暗視ゴーグルを付けた相手に、昼間の平地で闘う以上のスピードで、武装した相手を圧倒していく。

その間、1発も撃たせていない。

相手が位置を変えて撃とうとすると、絶妙に木樹の間に入り、目標から外れるのである。

残り3人になった時、誰何する声が聞こえた。

「誰だ!」

―バカ野郎!

道摩は心の中で誰何した人間を罵った。

声の主は、僧形の男達だった。

道摩が戦闘をしている間に、僧達が近くまで来ていたのだ。

タッタタタッ。

道摩から10メートル程離れた所から、小さな火花が見え乾いた音が聞こえた。

「伏せろ!」

道摩が叫んだ。

「グあっ」

「ぐう」

「ぎゃ」

うめき声と共に、僧が3人倒れた。

残った二人の僧は、急いで伏せた。

今度は道摩に三つの銃口が向けられた。

だが、銃口を向けた瞬間3人はその場で崩れ落ちた。

道摩が戦闘中に拾いあげた、チャクラムを首に受けたのだった。

道摩は、戦果を見届けようともせずに、倒れた僧の一人に駆け寄った。

血は出ていない。

近くに銃弾が落ちている。

それは、ゴム弾であった。

道摩はそれを確認すると、その場を離れ猛烈なスピードで山を駆け上っていった。











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