第28話「激突!高野山2」
道摩は闇の山中を駆けていた。
武装集団を撃退し、慧春尼の居る場所を目指す。
高野山に一際大きな法力を放つ人物がいる。
そこを目指せばよい。
暗闇も不確かな足元も、第6のチャクラを発動させている道摩には何の足枷にもなっていなかった。
昼間の平地同様に、凄まじいスピードで山を駆け上っていく。
道摩の前方に僧が5人見えた。
道摩は速度を落とさずに、僧達の前に出た。
「止まれ!」
僧の一人が道摩に気が付き、声を上げた。
僧達も訓練によって、道摩ほどでないが夜目が利く。
道摩は素直に従った。
出方を見るつもりであった。
「陰陽師の道摩殿か?」
言葉自体は丁寧だが、その言葉には険が含まれている。
「ああ」
道摩は短く答えた。
歓迎されている様子ではない。
「お手合わせ願おう」
意外な申し出がきた。
「嫌だね」
道摩はにべもなく答えた。
申し出た僧が薄ら笑いを浮かべた。
「心配なさらずとも一対一だ」
「そんな心配はしていない。五対一でもこちらは構わん。それよりいいのか?下で、銃で武装した連中がお仲間を撃ったぜ」
「逃げ口上かな?それなら闘わずに済むと?」
「嘘だと思うなら確かめて来るがいい。俺はあんた達に用はない。慧春尼大阿闍梨に用があるだけだ。通してもらおう」
「こんな夜更けに?しかも、正面からでなく山中から?」
「そうだ」
「無礼者め」
言うなり僧は、手に持った樫の棒で道摩の胸目掛けて突きを撃とうとした。
しかし、実際には動けなかった。
道摩の手が僧の手を抑えているからである。
撃つ構えに入る前に、道摩が間合いを神速の速さで一気に詰めたのだ。
「うっ」
棒を掴まれた僧は怯んだ。
抑えられた手が全く動かない。
「何のつもりか知らないが、止めておいた方がいいぜ」
道摩は静かに言った。
「シャッ」
道摩の右手の方向から、短く息を吐いて別の僧が撃ちかかってきた。
「うっ」
呻いたのは、道摩に手を抑えられた僧で有った。
いつの間にか道摩の居た位置に僧が入れ替わっている。
右肩の辺りを仲間の僧に棒で撃たれたのだ。
「ほらな。まだやるかい?」
道摩に手を抑えられている僧以外の4人が無言で構え直した。
「あくまでやる気か。じゃあ、仕方ない。相手になってやろう」
道摩が話し終える前に、4人が同時に撃ちかかってきた。
四方からの攻撃に逃げ場は無い。
5人の僧は確信していた。
自分達の勝利を。
だが、永遠にその瞬間は訪れなかった。
その場に昏倒する5人の僧を、道摩は何の感慨もなく見下ろしている。
何が起きたのか?
道摩は、撃ちかかられるより先に真上に2メートルほど跳躍した。
撃ちかかった4人の僧は、誰もそれを認識出来なかった。
それほどの凄まじい跳躍力とスピードであった。
気が付いた時には道摩の姿は無く、仲間が一人倒れていた。
だが、認識出来たのはそこまでだった。
いつの間にか倒れている僧から奪っていた棒で、瞬時に全員が叩き伏せられたからだ。
道摩は走りながら考えていた。
先程の僧とのやりとりで、武装集団をターゲットに僧達が出てきている訳では無い事が分かった。
僧達のターゲットはあくまで道摩のようである。
しかも、「手合わせ」を申し込んできた。
恐らくは慧春尼の差し金であろう。
―どういうつもりだ。慧春尼。
嫌な胸騒ぎを覚え武装集団の男達の正体を探らずに、先を急いで来てしまった事を道摩は後悔していた。
―慧春尼は奴らの事を知っているのか?
考えている内に、墓地へ出た。
そこにも僧達が15人程待ち構えていた。
道摩は、超感覚で彼らが居る事は分かってはいたが、最短ルートを選んだ。
「手合わせを希望かい?」
道摩の正面に立つ、体の大きな僧が答えた。
手には錫杖を持ち、2メートル、120キロは有りそうである。
「その通り」
「まさか、15対1じゃあないよな?」
「いや。15対1でお願いいたす」
体の大きな僧は屈託なくそう答えた。
「いざ!参る!」
叫ぶ様に言うと突っ込んできた。
錫杖を道摩に連続して突き入れる。
道摩はいずれも難なく躱した。
言葉に反し、他の僧達は手出しをしない。
道摩は少し後ろに下がり距離を取った。
「いいのかい?手を借りなくて」
「心配無用。いざとなれば全員で掛かります故」
「そうかい」
言いながら道摩は更に後ろに下がった。
下がった瞬間に大きな僧に向かってダッシュした。
僧が構える前に道摩は先ほど奪った棒を前方の地面に突き、棒高跳びの要領で僧達の頭上を越え、彼らの遥か後方に着地したと同時に猛スピードで走り去っていった。
残された僧達は、一瞬視界から道摩が消えた様に見えた。
気が付いた時には、既に道摩の後ろ姿を見送っていた。
苔むしてでこぼことした石の道を、尋常ではないスピードで道摩は走った。
僧達が追いかけたが、とても追いつけるようなスピードではなかった。
「まるで天狗だな。とても敵う相手ではないな」
体の大きな僧は、坊主頭を掻きながら呟いた。
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