第15話「道摩と口裂け女その1」

道摩はK県警本部へと向かっていた。

担当の市川警部補を尋ねる事になっている。

そしてそこに、慧春尼大阿闍梨も居る。

裏高野山最強の退魔師。

日本最強と言ってよい。

道摩は初めて逢うが噂では、途轍もない美人だという。

考えながら歩いていると、県警本部に着いた。

K県警本部は大正時代から有る古い建物で、見た目はモダンなレンガ作りである。

入口は階段になっている。

そこを上り正面が受付になっている。

受付で市川警部補の名を告げると応接室へと案内された。

応接室と思わしき所に、人だかりが出来ている。

扉があけ放しになっていて皆、中を覗き込むこもうとしている。

「通してくれ」

道摩が人だかりを押しのけて、応接室へ入る。

中に入ると、白髪頭のグレーのスーツを着た60歳前後の男と、

尼僧姿の恐ろしく美しい女が居た。

尼僧は、道摩が部屋に入った瞬間から入口に顔を向けていた。

部屋を覗き込んで居る連中から、そのあまりの美しさに感嘆のどよめきが起きた。

―これが、慧春尼大阿闍梨。20代か?噂通り・・いやそれ以上の美しさだな。何処かで会った様な・・いや気のせいか・・これだけの美しさだ。会っていれば忘れるはずがない・・

市川警部補が部屋の入口を見て立ちあがり、刑事特有の鋭く猜疑に満ちた目で道摩を見た。

「道摩ってもんだが、市川警部補かい?」

「そうだ。あんたが、残る一人って訳か」

道摩が頷くと、

「初めまして。私は慧春尼と申します」

「噂以上の美人だな・・」

慧春尼は道摩の言葉に艶然と微笑んだ。

「市川警部補。扉を閉めていただけますでしょうか。道摩さんがお見えになりましたので、本題に入りましょう」

慧春尼見たさの野次馬は退けられ、応接室には市川警部補、慧春尼、道摩の三人だけになった。

慧春尼は応接用の机に持参していた包みを広げた。

中から出てきたのは、包みから出てくるには似つかわしくないシロモノ、

ノートパソコンだった。

慧春尼がノートパソコンの電源を入れ用意を始める。

尼僧姿でパソコンを操作する姿は奇妙では有ったが、所作には無駄が無く、一つ一つの動きが美しかった。

準備を終えたらしい慧春尼が言った。

「これを見て下さい」

「これは・・あの公園?」

市川警部補の言葉に慧春尼が頷く。

ノートパソコンの画面に、事件が有った公園が映っている。

そこにサイキック探偵の姿が有った。

「ん?この間の探偵か?だがどうやってこれを」

「ドローンだな」

「何?ドローンだと?誰がそんな物で撮影を・・いや一体どこからこの映像を?」

「これは、ドローンを使って公安の特務課が撮影した物です。市川警部補、道摩さん、そのまま映像を見ていて下さい」

慧春尼が言い終わる寸前、画面に忽然と何かが現れた。

「これは・・・」

市川警部補が息を呑んだ。

「口裂け女」

市川警部補は口裂け女に遭遇した時のことを思い出して身震いした。

命からがら逃げおおせた事を。

画面の中では、探偵と口裂け女の壮絶な闘いが開始されていた。

数分後、探偵が口裂け女に斃された所で映像が終了した。

「信じられん・・こんな・・あの探偵は何者だったんだ?」

「サイキッカーです。彼の能力は、念動力で物を飛ばしたり動かしたり出来る能力の持ち主だったんです」

「サイキッカー・・」

市川警部補は未だに信じられないといった様子で茫然としていた。

「やられちまったが、奴は世界でも有数のサイキッカーだったよ。警部補さん」

「そんな・・それが本当だとして、あんなをどうやってんだ?」

市川警部補の言葉にも慧春尼と道摩は平然としていた。

「市川警部補。なんて事は出来やしないさ。誰にもね。文字通りなんだから」

市川警部補は道摩の言葉に目を剥いた。

「じゃあ、どうするんだ?」

「斃すのさ」

まるで、散歩に行ってくるとでもいう風に道摩は事も無げに言った。

「で、出来るのか?」

「さあてね。やってみないと分からないが」

「出来ますとも。道摩さんなら」

「??やけに俺の事を買ってくれている様だが・・前に会った事が?」

「法力の強さはすぐに分かります。お部屋に入って来た瞬間から分かりましてよ。それに私が付いております故、負けるはずがありません」






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