第42話:のりこめー

「材料は!?」

「下級ポーションとがんばる草一枚!」

「何に使う草かと思ったら、そういう事かよ」


 攻撃力アップのポーションを作るため、みんなで『がんばる草』の採取!

 30分頑張って『がんばる草』集めて……あれ、ダジャレになっちゃった。


 それから小川に移動して砂と貝を集めて、ポーション瓶の錬成。

 かーらーのー、小川の水でポーション錬成。ポーションに『がんばる草』を合わせて錬成して、『アタックポーション』の完成!


「結構手間かかるなこれ」

「物理攻撃力を+5か。レベル低いうちだと結構有難いかもね」

「ポーションもたくさん作れたし、俺たち錬金術師は支援特化でいくぜ!」

「「おー!」」


 わくわくしてきちゃった。

 私もいっぱいポーション投げるぞ~!


 急いでロックス平原に向かうと、そこは人! 人! 人ぉ!!


「すっごい集まってますね」

「そりゃあ公式イベントだからねぇ」

「アタックポーションの効果時間は五分間なので、戦闘が始まってから投げるように~」

「お祭りメバーは、支援するならばらけたほうがいいんじゃない?」

「それもそうだな。じゃあみんな、散らばろう」


 物理攻撃力を上げるポーションを投げるなら、前衛さんのいる所の方がいいよね。

 ラプトルさんとワンワン王くんに入れ替えて、守って貰いながら移動。

 モンスターがぜーんぜんいない。

 ううん。いた。いたけど瞬殺されちゃった。


 きょろきょろしていると、ピコーンという音がして通信機器アイコンが出た。

 あ、紅葉ちゃんからだ。


 ……紅葉ちゃんからぁ!?


『も、紅葉ちゃん? ログインしてるの?』

『しているから電話をしているのでござるよ。主殿、ボスは出たでござるか!?』

『え、ボスって……』


 巨大モンスターのことかな?


『まだだよ』

『よかったでござるうぅぅ。某も今から向かうでござるよ! というか向かっているでござるっ』

『その為にログインしてきたの??』

『ふ。息抜きにと思って公式サイト見に行ったら、告知されていたのでござるよ』


 受験勉強、大丈夫なのかなぁ……。

 まぁでも……


『息抜きも大事だよね!』

『でござる! 主殿、合流したいのでクミさんを飛ばして貰ってもいいでござるか?』

『うん、もちろん。待ってるねぇ~』


 通話が終わるとラプトルさんとクミさんを交代。

 しばらくして紅葉ちゃんが合流──と同時に少し離れた所にぐるぐるレインボー渦巻きが!


「あ、あれって」

「あそこからボスが出てくるのでござるな! 某は前に行くでござる。わんわん王殿も来る?」

『おぉん』

「あ、私も! 今日はね、支援に徹するの」

「しえん?」


 首を傾げる紅葉ちゃんに、今日ゲットしたスキルと、さっき教えて貰ったポーションのレシピのことを話す。


「おぉ! 錬金術師祭りでござるか。あ、某と一緒でもいいのでござる?」

「うん。みんなで固まってるより、散らばって支援してあげようって」

「なるなる。おぉ、なんか出てきてるでござるよ!」

「ほえぇ!?」


 ぐるぐるレインボーから、緑色の手みたいなのが出てきたぁーっ。

 て、手だけなのに、人間より大きいよっ。


 にゅにゅーって全身が出てくると、周囲から落胆する声があがった。


「おいおい、公式イベントでゴブリンだすのかよ」

「巨大にすればいいってもんじゃないだろう」

「このゲームのゴブリンは、コミカル過ぎるんだよなぁ」


 そんな声が聞こえる。

 う、うん。確かに『緊急事態』なんて言われて慌てて来たのに、緊張感のないモンスターだよね。


 でもそのゴブリンがこん棒を振るうと、物凄い数のダメージエフェクトが出てるの。


「うげっ。一撃が範囲攻撃になっているでござるよ」

「うわぁー……近づける?」

「ふっ。デスペナ上等でござるうぅぅーっ」


 あ、行っちゃった……。

 うん、そうだね。


「デスペナぁぁーっ」


 叫びながら私も特攻。

 紅葉ちゃんにアタックポーションを投げ、それから中級ポーションを左手に三本、右手に一本持って構える。


「わんわん王くんは紅葉ちゃんの傍にいてあげてっ。HPが減ったら私の近くに来てね」

『わおーんっ』

「クミさんは上空で魔法攻撃!」

『カッカーッ』


 で、私は──いた!


「回復ポーション、投げまーっす!」


 ぽーんと弧を描いて、定めた人の頭にHIT!

 戦闘中の人の頭上にHPバーが出るのって、回復支援する人のためにあるのかなぁ。

 くくーっとHPバーが戻るのを見て、ぐっとガッツポーズ。


 ふっふっふ。回復ポーションはいっぱいあるんですよぉ。

 さぁ、次はどこに投げようかなぁ。

 あ、あそこだ!

 こっちも!


 うわぁー、時間が経つにつれて、HP減ってる人がいっぱいになってきたよぉ。

 えぇい、こうなったら的を絞らず適当に投げるもん!


「えいえいえいえいっ」


 ぽんぽんぽーんと飛んでいくポーション瓶が、誰かを回復してくれますように。


「あれ、ミントちゃん。なんでポーションなんか投げてるの?」

「わっ。ロックんさん! 工房以外で見るの初めてですね~」

「なんか引き籠りみたいな言われ方……俺だって狩りして素材集めたりもするさ。ところでそのポーションは……」

「あ、これですか? 新しいスキルなんです。『ポーションピッチャー』っていう」


 ポーションを投げると、その効果が与えられる。

 そうロックんさんに説明して、投げる。

 パリンと音を立ててロックんさんに当たったポーション瓶は、そのままきらきらと光って消えた。


「本当だ。HP回復してる! え、錬金術師って、ヒーラーだっけ?」

「やだぁ、ロックんさんってば。錬金術師は錬金術師ですよぉ~」


 あ、HP減ってる人見つけたーっ。えい!


「ポーションたっくさん作ってきたので、じゃんじゃん投げちゃいますよー」

「やっぱりヒーラーじゃん。しかも赤字必須の無料ご奉仕……泣ける!」

「えぇー……えぇ……ほええぇぇ!?」


 な、投げれば投げるほど……赤字になってるぅー!

 あ、あの人死にそう!


「とりゃー!」

 

 命中したポーションが、瀕死だった人のHPバーを赤から緑に復活させる。

 よし、任務完了!


 うん、いいの。

 赤字って言っても、そもそも素材は自分で集めたものだし。錬成陣用紙代ぐらいだから、大きな赤字にはならないもん。


「こっちも回復頼む―!」

「あ、はーいっ。えいやーっ」

「さんきゅー!」


 あ、お礼言われた……えへ、ちょっと嬉しい。


 ちょっとぐらい赤字でもいいの。

 今が楽しいからいい!


「じゃんじゃんいくぞーっ」

「あはは。頑張れミントちゃん。ここでの赤字はきっと報われるよ」

「はい!」

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