第15話:町の西マップ

「紅葉ちゃ~ん」

「主殿。お待たせして申し訳ないでござる」

「ううん。また一緒に遊んでくれて、ありがとね」

「あ、主殿……わ、わた──いやいや、某こそ、主殿に出会えてよかったでござるよ」


 ふふふ。紅葉ちゃんってば、一瞬素が出ちゃってる。

 ヴェルさんやロックんさんと別れて、紅葉ちゃんと錬金術師ギルドで待ち合わせ。

 彼女が着てくれてよかったぁ。わたし、まだシーフギルドの場所、知らないもん。


「あのね、紅葉ちゃんを待ってる間、面白いことがいっぱいあったんだよぉ」

「え、面白いこと? ど、どんなことでござるか!」

「うん。実はね──」


 ──俺と手を組まないかい?


 ロックんさんが言う「手を組む」っていうのは、わたしがロックんさんの専属デザイナーになるっていうこと。


「量産品はいいんだ。さすがに数が多いから、錬成するのも大変だろうしね。だから良い物が作れた時に、それのデザインを錬成で変えて欲しいんだ」

「良い物をですか?」

「そ。性能が良いものは高く売れる。けど他の生産者だって、俺と同じようなものは作れるんだ。それにレシピがある装備だと、デザインは一律でね」


 あぁ、それでかぁ。

 同じような装備の人がいっぱいいるのは。


「性能も似ててデザインも同じ。そんな装備が二つ並んでて、価格だけは少し違う。チョコ・ミントちゃんがお客さんなら、どっちを買うかい?」

「え……えぇーっと……や、安いほう、かなぁ」

「だよねー。そ・こ・で! カッコいいのや可愛いデザインのがあれば、価格が同じならどっちを買う?」

「もちろん可愛いのです! わたしが、それを錬成すればいいってことですか?」


 ロックんさんがにっこり笑って「代わりに──」と、部屋にあった本棚から一冊の本を持って来た。


「『アイテム鑑定』のスキルを伝授するよ。他にも錬金術師で使えそうな、生産スキルの習得方法も教えてあげる。だから、俺専属でお願いしたいんだけどいいかな?」


 ・

 ・

 ・


「という訳なの」

「……主殿。その男と手を組んだのでござるか?」

「え、そうだけど。なんだか面白そうだし」


 1日に一回。夕方の5時ぐらいにロックんさんから連絡が来ることになってるの。

 ヴェルさんとロックんともフレンド登録して、連絡はそこから入ることに。


 ──製造するたびに呼んでたら、迷惑かけちゃうからね。


 と、決まった時間──お風呂や夕飯のために一度落ちる時間に連絡をしてくれることになった。

 夕方なら一度落ちるために町に戻って来るだろうって、ロックんさんが。


「な、なにかマズいのかな?」

「マズいでござる! その男、きっと可愛い主殿をかどわかす気でござるっ」

「か、かど……でもヴェルさんの知り合いみたいだし」

「そのヴェルという男も、可愛い主殿を──」

「女の人だよ?」

「へ」


 紅葉ちゃん、ヴェルさんのこと男の人だと思ってたのかなぁ。

 うん、確かにカッコいいお姉さんだけどね!


「ロックんさんは革防具とか作れるんだってぇ」

「革!? つ、つまり軽装備っ」

「けいそうび?」

「某、食後に少し情報サイトで錬金術師について調べたでござるが──」


 紅葉ちゃんがそう言った時、わたしの中で少しだけ胸がチクんとした。


 ──いらない子。


 そう言われたことを思い出す。


「錬金術師も某のシーフと同じ、軽装備が出来るようでござるな」

「そ、そうなの?」


 紅葉ちゃんは笑顔で頷いて、軽装備のことを教えてくれた。

 

 大丈夫。

 まだ会ってそんなに経ってないけど、紅葉ちゃんはあんなことを言う子じゃないもん。


 紅葉ちゃんが教えてくれた軽装備っていうのは、防具の中では中ぐらいの防御力のある装備のこと。

 革製のが多いけど、部分的に鉄を使った物もあるんだって。


「鉄が加われば防御力は高くなるでござる」

「ほほぉ」

「代わりにSTRやVITがある程度必要になってくるでござるよ」

「ほえっ。ステータスって装備にも関係あるの!?」

「あるでござる。主殿、狩りにいくでござる。スキルのレベル上げをしながら、某の分かる範囲のことは教えるでござるよ」

「うんっ。ありがとう、紅葉ちゃんっ」






 町の西側から駆け足で出てすぐの草原には、わたしたちみたいにゲームを始めたばかりの人がたくさん。

 そしてモンスターもたくさん!


 背の低い草ばかりだから少し先のほうまで見渡せて、モンスターも探しやすいのが人気みたい。


「あの『草原ラット』と、あっちの『草原ラビ』を狙うでござる。ラビからは革靴をドロップすることもあるでござる!」

「えぇ! く、靴くれるの!! うん、行こうっ。あ、紅葉ちゃん走るよぉ~っ」

「え、主殿っ。さっきからずっと走ってばかりでござるよ~」


 ヴェルさんが良いことあるって言ってたんだもん。

 きっと何かあるんだよ。


 でも……わたしが先に走り始めたのに、あっという間に紅葉ちゃんに追い抜かれちゃう。

 なんでだろう?


 あ、誰も攻撃していない兎さん発見!


「えぇいっ」


 ロックんさんに作って貰ったリボン──『ワイヤーレザーウィップ』──が火を噴くぜぇ~。


『キッ』

「わっわっ。主殿、新しいリボンでござるか!? ダメージが段違いでござるよ」

「す、凄い! このリボンもね、ロックんさんに作って貰ったの」

「むむ。職人としての腕は確かでござるか。くっ」


 でもさすがにわたしだけじゃあ倒せない。

 紅葉ちゃんが短剣でズバーっとやると、草原ラビさんが光になって消滅。

 うぅん、靴は出ないなぁ。代わりに出たのは兎の毛。あとお肉。


「あ! ご飯前の狩りで拾ったドロップアイテム! 紅葉ちゃんと半分こしなきゃ」

「え? な、何故でござるか?」

「何故って、だってわたしだけアイテムを拾ってるし」

「あぁ、主殿は知らないのでござるな。アイテムというのは、拾える権利のある者にしか見えないのでござるよ」


 え?


「ただし60秒間触れずにいると、今度は誰にでも拾えるようになってみんなに見えるようになるでござる」


 パーティーを組んでいた場合、クエスト専用のアイテム以外は、拾える権利が順番になってるんだって。

 知らなかったぁ。

 テレビゲームとはやっぱり全然違うんだねぇ。


「町で話していた装備に対してのステータスでござるが、重たい武器なんかはSTRが高くないと装備できないのもあるでござる」

「ほえぇ……。でも、うん。STR1のわたしが、重たい斧を振り回せるのも変だもんね」

「そういうことでござる。他にも武器マスタリーのスキルレベルが関係するでござるよ」


 武器マスタリーかぁ。


「あとプレイヤーの強さの基準は、武器マスタリーのスキルレベルで見るそうでござるよ。某は短剣マスタリーが3でござるが、これは他のゲームでの職業レベルが3に相当すると考えられているでござる」

「そうなんだ~」


 パーティーメンバーを募集するとき、武器マスタリースキルのレベルが近い人同士で組んだほうがいいんだって。

 その方が同じモンスターと戦えるから。

 もしAさんが武器マスタリー20で、Bさんが5がいたとして。Aさんが普通に倒せるモンスターでも、Bさんは全然ダメージを与えられなくなる。

 じゃあBさんに合わせると、今度はAさんは一撃で倒しちゃうことに。


「このゲーム、スキルレベルの経験値はモンスターを倒すことでも得られるでござるが、実は行動をすることで得られる経験値の方が多いみたいなんでござるよ」

「ほえぇ。じゃあ一撃で倒されちゃうと、レベルの低い人が育たないってことになっちゃうんだね」


 だからさっき、ヴェルさんはわたしが相手にしていたモンスターには、手を出さなかったんだぁ。


「だから主殿も、じゃんじゃんリボンを出すでござるよ」

「うん! いろいろ教えてくれて、ありがとう紅葉ちゃん」


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