第14話:手を組む
砂を五十個……個っていう言い方も変なんだけど、砂は物量1ごとに一個ってことみたい。
それと貝を六十五個ゲットして、わたしとヴェルさんは豚さん──草原ピック──の狩りを始めた。
「ここには草原エリマキトカゲもいるからね。そいつはアクティブモンスターだから、勝手に襲ってくるわよ」
「ほえぇっ、もう襲われてますぅー」
「おやぁ。ごめんごめん。てやっ」
うぅ。ヴェルさんが強くて良かったぁ。
それにしても、トカゲさんまで一撃で倒しちゃうなんて。
豚さんからもトカゲさんからも革が出て、あっという間に三十個集まった。
他にもトカゲの皮膚や肉も。もちろん、
「エリマキだぁ~」
「それも製造素材になるらしいよ」
「ふふ。これで作れる物って、どんなのですかねぇ」
「ダサそうだけどねぇ。さ、町に戻ろうか。丁度そいつ、ログインしてるからさ。時間は平気?」
そうだっ。紅葉ちゃんは──まだログインしていないし、時間も現実のほうで8:45。
こっちだと三十分以上ある!
「もう少しなら大丈夫です」
「よし、じゃあ走ろうか。あ、ここだけの話だけどね──」
ヴェルさんがわたしの耳元に顔を寄せる。そして、
「移動するときに駆け足か、全力疾走を続けていると良いことがあるよ」
と教えてくれた。
良いこと……なんだろう?
二人で走って町まで戻って、そこからやっぱり走って商業地区へ。
生産ギルドの建物は凄く大きくて、迷子にならないようヴェルさんの後を付いて行くので必死。
大きいだけじゃなく、人も多いんだもん。
錬金術師ギルドとは大違い……。
その建物の三階に行って、ヴェルさんがある部屋の扉をノックした。
「ロックん、いるか?」
「いないよ」
即答でいないって言った!
ヴェルさん構わず扉開けちゃったよぉ。
「あのさ、鞭作ってよ」
「え、ヴェルってそんな趣味が?」
「コロスゾ。この子のメイン武器が鞭なんだよ。でも初期のままでね」
中には二十歳ぐらいのお兄さんがひとり。
グレーの髪にグレーの瞳。青いバンダナを巻いたそのお兄さんは、わたしのことをじぃーっと見ていた。
「錬金術?」
「あ、はいっ。こ、この服、錬成して作りました」
「ほぉほぉ。面白いねぇ。いや、何人かそうやって装備グラフィックを変えようと、錬成に挑戦した連中も見たけど」
「そうだね。あんまり上手くはなかったな」
「そ、そうなんですか? 最初のステータス、全部DEXに振ったのがよかったのかなぁ」
えへへ。やったね。
「いや、単純にセンスが悪かったんだともうよ。錬成って、イメージ力が凄く大事らしいから。途中で変なこと考えたりすると、それだけでどろどろになるらしいからさ」
「ほえっ。じ、実は難しいんですね……」
まだ失敗したことはないけど、ホムンクルス錬成でそうなるのは嫌だなぁ。
「ふんふん。そうかぁ。これが錬成かぁ」
「おいロックん。目つきがエロい」
「な、なにを言う! お、俺はそんなえっちな目で見てな──いやいや、君もドン引きしないでっ」
思わず一歩下がっちゃった。
「あぁもうっ。製造だろ? 素材は」
「あ、はいっ。か、革、これだけなんですけど」
「豚とトカゲか。豚だけでいいや。あ、そうだ。攻撃力が欲しいんだよね?」
「え、っと。はい?」
ロックんさんがにこりと笑って、部屋にあったタンスへと向かった。
引き出しを一つ開けて、そこから取り出したのは──糸?
「鉄の極細ワイヤーさ。これを鞭に編み込んでみたら、攻撃力が上がると思うんだけど。どうだろう?」
「いいんじゃないか? でも試作はしてないんだよね?」
「うん、まぁね。でも上手くいったら革鎧にワイヤーを編み込んで、防御力も上がると思うんだよ」
す、凄い。そんなこと考えてプレイしてるんだ。
本当の職人さんみたい。
「上手く行くか分からないから、手数料なしでいいよ。失敗したら代わりの物も作るからさ」
「お、お願いします!」
「よし、お願いされよう。じゃあ作業に取り掛かるね」
「こ、ここでですか?」
さっき通って来た一階では、たくさんの人がいろんな作業をしていた。
作業台みたいなものもあったし、そこでするんじゃないのかなって思ったんだけど。
ロックんさんは部屋の隅にある大きなテーブルへと向かうと、渡した豚の皮を──叩きだした!?
「五分待ってね」
「は、はい……」
叩いて──ナイフみたいなのでじょりじょりして──水の入ったバケツに付けて──また叩いて──次は細く切っていった。
それから椅子に座ると物凄い速さで編み始める。
よく見るとワイヤーも一緒に編んでいるのが見えた。
す、凄い!
超達人!!
「よし、出来た。うん、攻撃力にボーナス補正付いたよ。やっぱりワイヤーはいけるじゃん」
「よかったねミントちゃん。あれ、またリボンにするの?」
「はいっ。わぁ、嬉しい。ロックんさん、ありがとうございますっ」
「リボン? リボンって……え、その腰のリボンが鞭なのかい!?」
「はい。あ、あの。作って貰ったばかりなんですが、錬成してもいいですか? わたし、新体操やっていたのでリボンのほうが使いやすいんです」
「な、なるほど。うん、いいよ。錬成するの見たいし」
ロックんさんい了承を貰って、レッツ錬成!
イメージは……革と一緒に編み込まれた鉄の極細ワイヤーをどうしよう。
刺繍にしたらせっかくの攻撃力は勿体ないし、ここはやっぱり縁取りにするべきかな。
「ヨシ。じゃあ行きます! レッツ『錬成』」
錬成陣がキラっと光り、中からイメージ通りの物が出てきた!
ヴェルさんの刺繍は、わたしのDEXだとまだ再現できなかったのかも。
こっちは縁を極細ワイヤーだけで織り込んだ感じにしてみたの。
豚さんの革はベージュで、片側の縁だけが鉄糸で出来たリボン。当たったら痛そう。
「おぉぉっ。なんでそうなるんだろうねぇ。ほら、これが元々の革の厚みだよ。それが紙みたいに薄くなるって……いや、だから長さも伸びているのか。物量がそのままだから、薄くなった分が伸びる的な。いやいや面白いよ君」
「あ、ありがとうございます」
「うんうん、で、名前なんていうんだっけ? 聞く前にインターフェーズから覗き見するのも悪いから見てなかったんだけど」
「チョコ・ミントです。ごめんなさい、自己紹介してなくって」
そ、そうか。インターフェーズで相手を見れば、名前なんて丸見えなんだよね。
それをしないで、わざわざ自己紹介を待ってくれるなんて……良い人!
「じゃあチョコ・ミントちゃん。俺と手を組まないかい?」
「ほ……え?」
ほええぇぇっ!?
な、なんだか一気に悪そうな人に見えるようになっちゃったよぉっ。
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