第20話:ホムさん

「エンブリオ二つで2000ENになります」


 真顔のアルさんからエンブリオを二つ買って、ホムンクルスの錬成の説明を聞いた。

 

「中型なら骨を最低でも10必要だよ。どんなホムンクルスにするか、素材とイメージも大事だから注意して」

「は、はいっ」

「イメージが出来たら、素材の物量が50になるように錬成陣の上に置くんだ。あ、エンブリオ一つで物量5あるから、気を付けるように」


 なら素材で物量45にすればいいのね。素材はどれも一つで物量1だから……骨10を差し引いて35っと。

 骨は──前衛アタッカーだもん。トカゲさんのにしようっと。

 トカゲさんの骨にするなら……そうね、形は──

 

 その時ふと、夕方にお父さんと一緒に見た、恐竜映画のことを思い出した。

 そうだ。あのヴェロキラプトルさんみたいな、強くて賢くて、そして優しい恐竜だったら……。


 二本足で、そんなに大きくなかったなぁ、あの子。

 そうだ。足の爪が一本だけ凄く大きかったよね。


「爪……爪……」

「爪でござるか? あるでござるよ」

「ほえ?」

「主殿が某を助けてくれた、あのボストカゲからドロップしたあれでござる」


 あ、そういえば鉤爪みたいなのがあったような。


「い、いいの?」

「某は籠手を貰ったでござる。ぜひ主殿に使って欲しいのでござるよ」


 紅葉ちゃんが鉤爪を取り出し、わたしにくれる。

 うん、凄くそれっぽい。


「ありがとう、紅葉ちゃん。これでイメージもしやすくなったよ」


 錬成陣用紙を広げ、真ん中にエンブリオ、周りに他の素材を置いて行く。

 ヴェロキラプトルなら、トカゲの革もあるといいよね。


 物量は──鉤爪で1。お肉14、革15と角5……少しぐらい、可愛いのがあってもいいよね。

 角を一つ減らして、柔毛を一つ足す。これで骨とエンブリオを混ぜて50!


 角はラプトルさんの牙用。鉤爪は足に。柔毛は……ふふ、モヒカンみたいにしちゃおっと。

 うん。いける!


「じゃあ……行くねっ。レッツ──」


 ラプトルさん。

 ヴェロキラプトルさん。

 一緒に……この世界で冒険しよう。


「『錬成』!」


 ぴかっとした錬成陣の光はいつもより長く。

 光は丸い玉になって、膨らんで──そして──。


『んぎゃ』


 本物よりはかなり小さいけれど、見た目は結構似てると思うの。


 あれ?


 あれれ?


「あ、主殿……主殿! 一回で成功したでござるよ!」

「成功……成功した!?」

『あぎゃぁ』


 か、可愛いっ。

 わたしより小さな恐竜ホムンクルス。頭のてっぺんに、ふわふわのモヒカンを生やした……。


『くぉかかかかっ?』

「ラプトルさん」


 ぎゅっと抱き着くと、不思議と──ラプトルさんの鼓動を感じた。

 生きてるんだ。

 ホムンクルスも、このゲーム──この『World Skill Fantasy Online』の世界で生きてるんだ。


「いや驚いたね。一発で成功するなんて。イメージしたいホムンクルスの形が、しっかり出来ていたのがよかったんだろう。それに、用意した素材が、それに適していたんだろうね」


 アルさんがそう言って手を叩いて褒めてくれた。

 えへへ、嬉しい。


 そういえば、お父さんと一緒に見た映画が役に立ったのかな。

 明日、肩叩きしてあげようっと。


「よぉし。この調子でヒーラーホムンクルスさんも、錬成成功させるぞー!」

『あぎぁーっ』

「ファイトでござる主殿!」

 





「げ、元気出すでござるよ主殿」

『くあぁぉぉん』


 撃沈……しました……。

 でも仕方ないの。ヒーラーってどんなイメージかなって考えた時、前にやってたRPGの神官さんが頭に浮かんで。

 でもそれはゲームのキャラクターだし、一応設定では人間だし。だからホムさんには慣れないって頭で考えたら……もう他にイメージ浮かばなくって。

 とにかくヒール使える子、でてこーい!

 って祈ったんだけど、ダメだった。


 どろ~んぐにょ~んってなったものが出来て、直ぐに消えちゃった。

 素材もエンブリオもぜーんぶ、消えちゃった。


「はぁ……」

「ま、また素材を取りにいくでござるよ!」

『あっぎゃ』

「紅葉ちゃん、ラプトルさん……ありがとう」

「某、ログアウトは23:30でござるが、こっちの時間であと二時間ぐらい残っているでござる。ホム殿の力も見たいでござるし、行くでござるよ!」


 そうだね。せっかくラプトルさんが生まれたんだし。


「初めての冒険に、行こうかラプトルさん」

『あぎゃっ』


 首を振って頷くラプトルさん。ふわっふわのモヒカンがそのたびにふっさふっさして、可愛い。


 町の西側にやってきたわたしたちは、さっそくラビ発見!


「ラプトルさん、行くよ! えいっ」


 ラビをリボンでピシっと攻撃すると、そのラビに向かってラプトルさんが猛ダッシュ!

 姿勢を低くしたラプトルさんは、そのまま頭突きをするようにラビをふっ飛ばしちゃった。

 ぽーんっと弧を描いて飛んで行ったラビは、地面に落下するとそのまま光に。


 た、倒しちゃった。

 凄い!

 ラプトルさん、生まれたばかりなのに紅葉ちゃんみたいに強い!


「こ、これは……主殿。試しにラプトル殿だけで、ラビを攻撃させてみるでござるよ」

「う、うん。ラプトルさん、えぇっと……あ、あのラビを倒せる?」

『んぎゃ』


 ドドドドドドドっと走って行ったラプトリさん。さっきと同じように頭突きでふっ飛ばして──ラビは光になって消えちゃった。

 消え……


「ほええぇぇっ!? い、一撃で倒しちゃったぁっ」 


 ラプトルさん、めちゃくちゃ強いです!


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