第19話:忠誠心

「主殿」

「は、はいっ」


 錬成した忍者服──のつもりで錬成した──を持って、紅葉ちゃんがぷるぷると震える。

 だ、ダメだったかな?

 

 元はグレーのジャケットに黒のタンクトップ、ボリュームのある黒のハーフパンツ。

 そのジャケットを羽織りのようにして、タンクトップはそのまま。ハーフパンツはふわっとボリュームのあった分、丈を少し伸ばしてみた。丁度ショートブーツに裾が入るぐらいに。

 ジャケットの一部が白い布だったけど、その部分で羽織りの背中に『忍』って書いてみたんだけど……。


「も、紅葉ちゃん?」


 ぷるぷる震えている紅葉ちゃんは、なかなか言葉を続けようとしない。

 や、やっぱり気に入って貰えなかったのかなぁ。

 お、女の子だし、やっぱり可愛いものも紅葉ちゃんに似合うと思って、羽織りの裾をさりげなーくフリルにしたんだけど。


「主殿!! 某、一生ついて行くでござるっ」

「ほえっ」

「さ、さっそく着替えるでござるねっ」

「う、うん」


 よ、よかったぁ。喜んでくれたみたい。

 すぐに紅葉ちゃんの服が錬成した忍装束に早変わり。

 うん。自分で言うのもなんだけどー、絶対可愛い! フリルが!!


「主殿、ありがとうございます」

「うん。ちょっと布の長さが短かったから、これが限界だったけど」

「なるほど、布の長さでござるか。確かにシーフの装備はジャケットも短いでござるし、ズボンもショートパンツかハーフパンツでござるな」

「そうなんだ? 職業によって特徴があるのかもね」

「ふむ。次に依頼するときには、なるべくたくさん布を使っていそうな装備を選ぶでござるかな」

「もしくは追加の布を用意するっていうのでもいいよ」


 それが出来るのはロックんさんが作った装備を錬成した時に、出来るって確かめたから大丈夫。


「でもその為に、まずは素材集めでござるな」

「うん、そうだね」

「スキルのレベルも上げて、どんどん先にエリアにも行きたいでござるし」

「先の……うん! 行きたい!!」

「そうなると、武器も新調せねばならぬでござるし……うぅん、欲しいものだらけでござるなぁ」


 武器……これは私の錬成じゃあ、今持っている物より強いものは作れないもんなぁ。

 私のリボン──鞭だけど──武器としての攻撃力は凄く低いし。

 もっと強くなれれば、遠くまでいけるようになるのかなぁ。


「そういえば主殿は、ホムンクルスの錬成をしないのでござるか?」

「え、ホム……あっ!」






「アルさぁ~ん」


 紅葉ちゃんと一緒に錬金術師ギルドの二階へ駆け上がった。

 手袋や靴の製造依頼で使った素材以外、わたしずっと持ったままなんだけど……ホムンクルスの錬成できるかなぁ。

 二階にあがってアルさんを見つけて駆け寄ると、


「やぁいらっしゃい。俺はアル。ホムンクルスのことが知りたかったら、俺に聞くといい」


 とほほ笑むアルさん。


「ど、どうしたんですかアルさん……さっきお話したじゃないですか」

「主殿。これはNPCでござるよ。誰か来るとかならずこのセリフを言うだけでござろう」

「うぅ……さっきは違ったのになぁ」

「クエストか、他のNPCからの紹介とか?」


 あ、ケミさんからの紹介だった。それでかぁ。


「あの、ホムンクルスを……」

「あぁ、チョコ・ミントさんだね。今日はどんな用なんだい?」

「え……えぇっと」


 まるで急にわたしのこと思い出したみたいな感じ。


「あの、ホムンクルスの錬成をしてみたいんですけれど……」

「エンブリオは一つ1000ENだよ」

「は、はい。それは分かっているんですけれど、今持ってる素材で錬成できるのかなぁって思って」


 そう尋ねると、アルさんが少しだけ固まって「何を持っているんだい?」と。

 わたしがアイテムの確認をしていると、後ろで紅葉ちゃんが、


「今の間は、NPCがプレイヤーの質問に対して的確な答えを考えている時間でござるよ」


 ──と。

 へぇ、NPCさんってそうやってわたしたちの質問に答えてくれていたのかぁ。

 そういえばケミーさんもアルさんも、時々止まるときあったっけ。


「えと、アルさん。トカゲの皮膚が二十五個、草原ピックの革が七個、あと──」


 草原ラビの柔毛が八個。トカゲさんや豚さん、兎さんのお肉も、全部で二十五個ぐらいかな。

 骨はエリマキトカゲさんのが十二本、兎さんのが五本かな。

 あ、角も十本あるんだった!


「──なるほど。それなら小型のホムンクルスで三回分。もしくは中型と小型で一回ずつか」


 小型は物量が30、中型は50。

 えぇっとそれはつまり……。


「今教えてくれた素材の総物量が92だ。錬成回数で言えば、小型なら三回できるが、中型もというなら一回と、あと小型一回になるんだよ」

「な、なるほど……ホムンクルスって三匹連れて歩けるんですか?」

「今はまだ無理だ。だけどねチョコ・ミントさん。ホムンクルスの錬成は成功率が低いからね。失敗することも考えないと」


 し、失敗かぁ。うぅん、じゃあもっとたくさん素材を集めたほうがいいのかなぁ。


「とにかく主殿、今出来るだけでもやってみるといいでござる。もし一回でも成功すれば、万々歳でござるし」

「そ、そうだよね。うぅん……じゃあ……」


 ホムンクルスはアタッカー、後衛アタッカー、ヒーラーがいるっていうけど、どの子が必要かなぁ。

 紅葉ちゃんは前衛アタッカーで、わたしは……中距離って言ってたけど後衛に入るのかなぁ。

 じゃあ、ヒーラー?


「紅葉ちゃんは、ヒーラーホムンクルスがいいと思う?」

「んー、某たちは今、レベルが低いでござるから、ポーションでも十分でござるし。それに、主殿のホムでござる。主殿が欲しいと思う子を錬成するでござるよ」

「わたしが……」

「某がいない時は、どのタイプのホムが一番必要か考えればいいのでござる」


 紅葉ちゃんがいない時……そうだよね。ずっと同じタイミングでログインできる訳じゃないもん。

 うぅん……わたしが必要としているかぁ。


「ちなみに、前衛アタッカーは中型か大型。後衛アタッカーとヒーラー&バッファーは小型か中型でしか錬成できないからね」

「ほえぇ。タイプでも物量が決まっているんですね……」


 うぅん。後衛アタッカーだとわたしが守ってあげなきゃならないだろうし、ヒーラーもそうだよね。

 リボンは前衛として戦うには不向きだし……じゃあやっぱり。


「前衛アタッカーと、ヒーラーホムンクルスの錬成をします!」

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