第29話:不思議の国の・・・

「レッツ『錬成』♪」


 お昼ご飯が終わって、インターネットで「水色と白の服」と「可愛い」「イラスト」で検索して見つけたのは──


「えへへ。アリス衣装~♪」


 他にもいろんなドレスが出てきて、可愛いのがたくさんあったんだけど……。

 生地の量や、イメージのしやすさでアリスの衣装をチョイス。黒い部分もあって、それで白いエプロンにスペードの模様を入れたりもできた。

 昨日のヴェルさんのカンフー服みたいに、細かい刺繍なんかは自動補正で変な形にされちゃうかもしれないし、ドレスは当分お預け。


「えへへ。どう、ラプトルさん」

『んぎゃ?』


 首を傾げてるってことは……よく分かって貰えてないってことでいいんだよね?

 ま、まぁ恐竜さんだもん。可愛いのが分からなくても、仕方ないよ。うん。


「さ、さぁて。紅葉ちゃんはお昼からログインするって言ってたけど……まだみたいだし、ちょっと町の中をゆっくり見てみようか」

『あぎゃぁ』

「いいラプトルさん。わたしの傍から離れないでね。あ、そうだ」


 さっきまで私が着てた初心者の服。

 これをラプトルさんが着れるように錬成しなおせないかな?

 装備を着れれば、きっとモンスターと間違われなくなると思うんだぁ。


 ラプトルさんに着せるんだし、ベストみたいにしたほうがいいのかな。


「レッツ『錬成』──よし、出来た。ラプトルさん、これ着てみて」

『んぎょ?』


 ん?

 装備出来ないのかなぁ。でもステータス画面には、装備一覧の項目があったし……。

 あ、もしかしてわたしが操作すればいいのかな?


 アイテムボックスを開いて手に持ったベストを突っ込めば、アイテム欄にそれが表示される。

 わたしのステータス画面には、ラプトルさんのステータス画面を呼び出すアイコンがあるのでそれをタップして──アイテムボックスのベストをドラッグ&ドロップっと。


 思った通り!


「ふふ。自分で言うのもなんだけどぉ、うん、ラプトルさん似合ってる」

『おぎゃぉ』


 突然現れたベストに驚いたのか、ラプトルさんがくるくる回転してベストを見ようとしてる。

 明るい茶色の魔法少女みたいだった服は、今はトレジャーハンターさんのようなポケットがたくさん付いたベストに。

 それを着たラプトルさんは、まるで探検家みたい。カウボーイハットなんかあったらカッコいいんだろうなぁ。


「ふふ。ラプトルさん、カッコいいよ」

『あ、あぎゃぁ』


 あ、恥ずかしがってる!

 手で顔を隠そうとしてる……けど、手が小さくて全然隠れてない。

 ふふふ、かわいいなぁ。


「よし、行こう!」






 どうやらプレイヤーのみなさんは、ラプトルさんのことをモンスターだと思わなくなってくれたみたいです。

 でもやっぱり注目の的です。


「恐竜が服着てるぞ」

「魔物使いか、あの子は?」

「テイミングモンスターかな。でもあんなの見たか?」

「強そう……いいなぁ、アレ」


 訂正。

 やっぱりモンスターだと思われているようです。

 でも怖がられたり、武器を構えられたりはしなくなった。

 魔物使いとかテイミングとか聞こえてくるなぁ。たしか魔物使いって、モンスターとお友達になって、一緒に戦って貰う職業だよね?

 ホムンクルスと似た感じだけど、魔物使いがお友達に出来るのはフィールドにいるモンスター。

 錬金術師は素材から自分のイメージで、自由に形を造形できる。

 ここが大きな違いだね。


「ホ、ホムさんでーす。ラプトルさんは、わたしが錬成したホムさんでーす」


 そんな独り言を呟きながら、町を歩く。

 プレイヤーさんがいっぱい。お友達と一緒の人もいれば、ひとりで歩いている人もいる。

 町を歩いているのはプレイヤーさんだけじゃなくって、NPCさんもいた。

 買い物籠みたいなのを持って歩いている姿は、本当に日常風景のように見える。


『あっぎゃ』

「どうしたの、ラプトルさん」


 ラプトルさんが立ち止まって別の通路をじっと見つめてる。

 わっ、人がいっぱい。

 装備を着ている人がいるから、プレイヤーさんだね。

 

 町の地図を見ると、人がたくさんいるのは中心地みたい。

 何かあるのかなぁ。


 ラプトルさんと一緒に歩いて行くと、道の両端にお祭りで見る屋台みたいなのがずらーっと並んでた。

 屋台にはお店の人がいたりいなかったり。

 でもお客さんは……誰もいない屋台で買い物してるの!?


「ほえぇっ。どうしてお店の人がいないのに、買い物出来ちゃうんだろう」

「ふっふっふ。それはだね──」

「ほえ!?」

『あぎゃっ』


 ばばって振り向くと、真後ろにヴェルさんが!


「はぁん。ラプトルさん、服着てるぅ。かわゆいの~、かわゆいの~。頭のふさふさもかわゆいの~」


 そう言ってヴェルさん、ラプトルさんのふさふさモヒカンを撫でていた。


「ラビの柔毛を使ったんです。もふもふも欲しいなぁって思って」

「うんうん。もふもふは大事だよねぇ。ところでミントちゃん。露店通りはまだ見てなかったのかい?」

「露店通り……ここのことですか?」


 頷くヴェルさんは、ここがプレイヤーの製造アイテムを販売する通りだと教えてくれた。


「人の集まりやすい場所に段々と露店が立ちだしてね。気づけばこうなっていたっていう」

「ほえぇ~、そうなんですかぁ。あのぉ、ヴェルさん。お店の人がいる所といない所がありますけど?」

「あぁ、不在露店だね。あの屋台みたいなのはNPCから買うんだけど、機能として自動販売もあるんだよ」

「じゃあお店に立たなくてもいいってことですか?」

「そういうこと。でもデメリットもあるんだよ」


 メリットはもちろん、お店を出している間も自由に行動できること。ログアウトしていてもいいんだって。

 デメリットは──


「自動販売だと、設定した価格でしか販売しないんだ。でも店に人がいれば、値段交渉もできる。少しでも安く買いたい人は、まずは製造者が立ってる露店に行くんだよ」

「じゃあ同じ商品だと、なかなか売れないってことですか?」

「値段次第だね。高めに設定していれば当然売れ残るだろうし、他の露店で売ってなければ少しぐらい高くても売れるだろう」


 欲しい物があれば、ちょっと高くても他で売ってなければ買っちゃうもんね。

 そうだ。午前中に錬成したポーション!

 紅葉ちゃんに分けてあげるとして、百本ぐらいは売ってもいいもんね。


 ふ、ふふふ。

 レシピでお金持ちになったし、露店買っちゃおうかなぁ。


「その顔は、露店を出そうと企んでいるね」

「ほえっ。ど、どうして分かるんですか?」

「この話の流れで、まったく違うこと考えてたら、それはそれで凄いよねー」

「そ、そうですね。えへへ」


 ヴェルさんは露店を売ってくれるNPCさんの所にも案内してくれた。

 生産組合の中にいて、露店は誰でも自由に購入することが出来る。


「いらっしゃいませ。露店のご購入はこちらです──いらっしゃいませ──」

「あの、露店を買いたいのですが」

「ミントちゃん。そのNPCは同じことしか喋らないから。購入したいときはもう一歩近づいてごらん」

「もう一歩?」


 足元を見ると、NPCさんを中心に白い線で〇が書かれてた。わたしはギリギリその〇の中に入って無くって。

 一歩……わっ。ホログラムディスプレイが浮かんで、そこに露店一覧と価格が出てたっ。


「露店って種類があるんですねぇ」

「みたいだね。私は買ったことないけど、露店によって並べられる商品の数や、連続で出せる時間が決まってたりするようだよ」

「ほえぇ~。形もいろいろあるんだぁ」


 売りたいのはポーション。でも先々のことを考えると、あんまり並べられる種類の少ないのは良くないよねぇ。

 上から順に見ていくと、一番少ないので5種類。多いのだと20種類だった。

 更にそれぞれで連続設営可能時間っていうのがあって、現実時間で一時間、三時間、五時間の三種類。

 これを過ぎると自動的に露店は閉店するんだって。


「じゃあ10種類にして、時間は真ん中の三時間にしようっと」

 

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