第35話:ぎょぎょ

「リ、リボンが切れちゃった!?」

「なんとぉ!? はっ、もしかして行動阻止って、武器の耐久度をゴリゴリ削ってしまうでござるか?」

「え、た、耐久度?」

「使うほどそれが減って行って、ゼロになると壊れるござるよ。でも普通は早々削れないから、心配する必要はないのでござるが」


 ほえぇっ。そ、そんなのがあるなんて、知らなかった。

 で、でもどうしよう。リボンが無いとエラプルプルも防げないよぉ。


 そ、そうだ。最初に使ってたリボン!


『あぎゃっ』

「え?」


 ラプトルさんの声がして、それで半魚人を見ると……


『ぎょぎょぎょーっ!』

「待って待って待ってぇーっ」


 叫ばれちゃった!

 どうしよう、普通サイズの半魚人がーっ。


『ギョロロ』

『ギョ』

「出たぁーっ! あ……れ? 4匹だけ?」


 パーティーメンバーの倍の数が出てくる。そう思っていたから、8匹来るだろうなぁって。

 でも川から出てきたのは4匹だけ。

 といっても、やっぱり数が多いから大変!


『もるぅっ』

「モ、モルさん無理しないでっ」

『も、っもるぅ』


 モルさんが普通サイズの半魚人に体当たりしていって、ガジガジと噛んだりしてる。そのくせしっかりとラプトルさんへのヒールも忘れてない。

 モ、モルさん優秀!


 私も頑張らなきゃ。

 古いリボンを取り出して、次のエラプルプルは防げた。


「あと10%でござる!」

「古いリボン出したの。でも──」


 でもリボンの攻撃力が弱すぎて、普通サイズの半魚人にすらダメージを与えられてないよぉーっ。


「雑魚半魚人は某がなんとかするでござる。主殿は召喚の阻止に専念して欲しいでござるよ」

「う、うんっ。頑張る!」


 私、ほとんど役に立ててない。もっと攻撃力のある武器を、いくつも用意しなきゃっ。

 せめてこのボス戦は、無事に終わってぇーっ。


 でもそんな希望すら叶わなかった。

 二本目のリボンはすぐに切れてしまった。

 半魚人の残りHPはもう5%以下。


「もう少しでござる! もう少しでござるから、頑張るでござるよっ」

『あぎゃーっ』

『もるるぅ』

「みんな……みんな頑張って!」


 私だけ何もできないなんて……。


『ぎょぎょぎょーっ!』

「や、やだ! やめてよっ!!」


 4匹の普通サイズ半魚人が出てきて、ラプトルさんを囲んだ。

 ラプトルさんのHPは半分以下になっちゃってるのに、ダメェーッ!


「ラプトルさんに攻撃しないでっ」


 素手でポクポクと叩くと、一匹が私の方を向く。


『あぎゃっ』


 すぐにラプトルさんが尻尾で普通サイズの半魚人を叩いて、また向きが変わった。


「私のほうを向かせておくの! ラプトルさんはボス半魚人だけをっ」

『んぎゃっぎゃっ』


 嫌々と首を振るラプトルさん。

 そんな……私を守ろうとしてるの?

 やだよラプトルさん。ラプトルさんの方がボロボロなのに!


「某が倒すでござる!」

「お、お願いっ」


 紅葉ちゃんも頑張ってるのに……私にも何かできることは!?

 他に武器は……武器になりそうなものとか、ないの!?

 なんでもいい。なんでもいいの。使えそうなら錬成するから!


 なんでも……そうだよ。なんでもいいんだよね。

 直ぐに錬成陣用紙を取り出す。ついでに「石」も。

 この石は最初に受けたクエストで、スライムをたっくさん倒した時に拾ったもの。綺麗な石はクエストアイテムで、これはただの石。なんとなくずっと持ったままだったの。


 石一つが私の握りこぶしぐらいの大きさ。

 これ、三つあれば新体操で使うクラブみたいにならないかな!


「難しく考えてちゃダメっ。急がなきゃ! レッツ『錬成』!」


 ピカっと光って、石のラバークラブが完成。


 よぉし、投げるぞーっ。

 どうせなら痛そうなところを──やっぱり頭だよね!


 私みたいに力がなくても、どう投げればクラブが痛くできるか分かるの。

 だって練習中にさんざんやったんだもん!


 ぽーんっとたかーく、弧を描くようにして投げる。

 これをキャッチできなくって、頭に当たった時の痛さったらね、もう堪んないんだからぁ。


 と言ってるそばから、ゴンッって物凄い音がして半魚人にクラブがヒット。

 ふぇ。ダ、ダメージ10!?

 少ない。

 でもゼロよりはマシ!


 どんどん錬成して、どんどん投げれば──。


 どんどん。

 どんどん。


 半魚人のHPがあと4%。

 もっと錬成して、もっと投げてっ。


 HPあと3%。

 もう少しだよ!

 あとちょっと!!


『ンギョロロロロロロ』

「ほえ?」


 今までにない叫び方。何かするの?

 その瞬間、半魚人の口からボールみたいな水が発射された。


『あぎゃぁぁっ』

「きゃぁっ」

「ラプトルさん!? 紅葉ちゃん!」

『もるるー』


 モルさんが必死にヒールをする。でも──

 半魚人の水鉄砲はまだまだ飛んで来た。


「きゃっ」

『ぁ、ぎゃぁ』


 ラプトルさんが私の前に立った。私の前で、飛んでくる水鉄砲を全部──


「ダメ! ラプトルさんが死んじゃうっ。ダメだよラプトルさんっ」

『んぎゃぁ』


 ──倒そう。


『んくおぉぉ』


 ──先へ進もう。



 ラプトルさんが、そう言った気がした。

 

「分かった……うん、頑張ろう。一緒に頑張ろうね!」


 水鉄砲が終わって、手にしたクラブを次々に投げつけて行った。

 ピコンって音がしたけど、今は半魚人を倒すのが先!


 あと2%!

 

 1%。


「あと──これでフィニッシュでござる!」

『ンギョロオォォォッ』


 泡を吐き出したなら倒れた半魚人。

 やった……やった……


「やったよラプトルさん、モルさ──ラ、ラプトルさん!?」


 ラプトルさんが橋の上に倒れてる。なんで? どうして?


「ラプトルさんっ。大丈夫? どうしたの?」


 呼びかけても返事をしてくれない。

 そればかりか、ラプトルさんの体が虹色に光りだして……


「あ、主殿……ラプトルのHPはもう……」

「HP? ラプトルさんの──」


 視界の左端の方にあるパーティーメンバーの簡易ステータスでは、ラプトルさんのHPは──0になってた。




**************************************************

 異世界転生で新作を投稿しました。

 よろしければ暇つぶしにこちらもいかがでしょうか??


https://kakuyomu.jp/works/1177354054897457813

『錬金BOX』で生産チート+付与無双~無能と罵られ侯爵家を追放されましたが、なんでも錬成できちゃう箱のおかげで勝ち組人生を送れそうです~


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る