第8話:紅葉ちゃん

「某、名を紅葉と申す。恩人たる主殿にこの命、捧げる所存でござる!」

「え、えぇっと……恩人なんて大袈裟だよぉ」

「いいえ、大袈裟などでは──おや? 主殿とはどこかであったでござるか?」

「うん。さっき町でぶつかった──」

「おおぉぉ! そうでござる。町でぶつかったハーフリングの女人であったか」


 にょ、にょにん……。

 忍者になりたいって言ってたけど、口調も徹底してるなぁ。

 あ、でも女の子なんだし、くノ一かな?


「主殿はこの森でクエストでござるか?」

「あ、うん。錬金術師ギルドのお姉さんからお仕事を貰って。あの、わたしの名前は──」

「チョコ・ミント殿でござるね。戦闘態勢にあんれば、頭上にHPバーとキャラ名が浮かぶので知っているでござるよ主殿」


 つまり名前では呼んでくれる気はないらしい。


「主殿はクエストが残っているでござるか?」

「うん。あと四つ」

「じゃあ某、手伝うでござる」


 紅葉ちゃんがそう言って右手を出す。

 握手ってこと?


 えへ、えへへ。なんだか嬉しい。

 ゲームの中で、友達ができたみたい。

 差し出されたその手を掴むと、ピコンっと音がしてディスプレイが浮かぶ。


【紅葉さんからパーティーの申請が届きました】

【承諾しますか?】

【はい / いいえ】


「握手がパーティーを作るやりかたなの?」

「そうでござるよ。パーティーを組めば手分けしてクエストが出来るでござる。討伐系クエストなら、某が倒したモンスターもカウントされるでござるから」

「おぉ! それ助かるぅ。えっとね、残り四つのうち、二つは討伐だったの」


 えぇっと……あ、さっきのトカゲさんが討伐対象だったんだ。

 二十匹倒せっていう内容だったけど、カウントが[1/20]になってた。

 ふむふむ。あのトカゲさん、赤黄色キノコを食べちゃうのか。キノコは解毒ポーションの材料なんだって。だから食べつくされると困るから、討伐依頼をギルドが出したって書いてある。


「紅葉ちゃん。さっきの小さなトカゲ、あと十九匹お願いっ」

「承知いたした。HPも今ので全快したでござるから、もりもり行くでござるよ!」






 私のリボンだと十回ぐらい攻撃しなきゃ倒せないトカゲさん。

 それを紅葉ちゃんは三回で倒しちゃうの。

 やっぱり短剣は強いんだなぁ。


「終わりでござる! 次はなんでござるか?」

「え、えぇっとね。次は『三ツ星テントウ』ってモンスターなんだけど……」

「それならあっちの草原にいたでござるよ」


 紅葉ちゃんの案内で森を出ると、そこは町へ向かうのとは別の方角。

 草原にはブーンっと飛び回ってる蜂とかテントウ虫が。

 ただし、すっごく大きいの。蜂さんなんてわたしの顔ぐらいある!


「あ、蜂蜜が収集クエストだ」

「ふむ。あの蜂でござろうか? 試しに叩いてみるでござるか。主殿、一匹釣って貰っていいでござるか?」

「つる? でもわたし、釣り竿なんて持って──」

「いやいや。その武器で攻撃するだけでいいでござる。ただしこちらに向かって来るまで、追加攻撃は必要ないでござるよ」


 紅葉ちゃんは、離れた位置のモンスターを呼び寄せたり攻撃してここまで戻ってきたり。そういったのが釣るっていう意味だって教えてくれた。

 紅葉ちゃんって、私ぐらいの年齢に見えるけど──プロだ!


 言われた通り、一匹の蜂さんにリボンでピシッ。

 ブーンって飛んで来たところを、紅葉ちゃんが短剣でズバーって。


「森トカゲよりは硬くないでござるな」


 森トカゲってうのがさっきのトカゲさんのこと。

 そっかぁ。トカゲさんより弱いのかぁ。

 だけど──


「くっ。すばしっこいでござる。某のDEXだと、攻撃のミスも目立つでござるな」

「そ、そうなの? わたしは全然ミスしないけど」

「主殿、DEXはいくつでござるか?」

「96+5」

「たっかっ!」


 え、高いの?


「つまり他のステータスは、全部1でござるか!」

「う、うん。だって錬成するのにDEXが必要だから」

「あぁ、なるほどでござる。よし、戦術を変えるでござるよ」


 せ、戦術!

 なんだかカッコいい~。


 紅葉ちゃんの戦術だと、まず私が蜂さんを釣る。そしたら『巻き付け』で蜂さんの動きを封じ込める。その後は紅葉ちゃんが素早く止めを刺すってこと。

 うん。協力プレイでステキっ。


 さっそくやってみると、リボンに捕まった蜂さん相手に紅葉ちゃんの攻撃は100%当たってる。

 そして蜂蜜は、やっぱりこの蜂さん──ビータン──からドロップした。

 必要なのは十五個。

 ビータンと一緒に三ツ星テントウも同じように倒していく。


「揃ったぁ~」

「やったでござるな。最後のクエストはなんでござるか?」

「うん、これは簡単そうなんだけど──砂と貝を集めてきなさいって。近くに川があるから、そこで手に入るって」

「お、あの川でござるな」


 草原の先に川が見えた。

 二人でそこまで駆けて行くと川はとても浅くって、中にはシジミ貝みたいなのがいっぱい!


「あのシジミはモンスターでござるな」

「う、うん……」

「じゃあ行くでござるよ!」

「お、おう!!」






「ふえぇ。シジミ硬かったぁ」

「貝でござるからねぇ」

「砂の方は川底にあるのを掬うだけでいいから、よかったぁ。ありがとう紅葉ちゃん。おかげで全部終わったよ」

「では町に戻るでござるよ」

「うんっ」


 ここからでも町は見える。

 迷子にならず、まっすぐ町まで戻ると──


「某もクエストの報告をしてくるでござる。それが終わったら一度ログアウトしなきゃならないでござるよ」

「ログ──あ、今何時だろう?」

「リアルだと夕方の5時を過ぎたところでござるな」

「ひやぁ。お昼からずっとやってたけど、もうそんなに経っちゃったんだ。私もお風呂掃除とかあるし、ログアウトしなきゃ」

「某と同じでござるな。じゃあ主殿──某とその……フレンド登録、してくださるか?」

「え」 


 フレンド登録。確かこれって、友達になった相手とどこにいても連絡が取れるようになる機能だよね。

 そ、それじゃあ……。


「紅葉ちゃん。わ、わたしと、お友達になってくれるの!?」


 思わず興奮して紅葉ちゃんに詰め寄る。


「ん。あ、いや、某は主殿の忠実な家臣でござるから。んー、家臣も違うなぁ。忍者なのだし、忠実な……影!?」

「あはは。紅葉ちゃんったらぁ、お友達だよぉ」


 えへへ。

 本当にお友達出来ちゃった。


 VRMMOって、すっごくすっごく楽しい!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る