第9話:モードチェンジ
「っていうことがあったんです!」
紅葉ちゃんと分かれて錬金術師ギルドへ戻って来たわたしは、お仕事完了の報告と一緒にさっきのことをお話した。
「楽しそうでなによりです。そころでその方とはフレンド登録をなさいましたか?」
「はいっ」
「そうですか。ではフレンド機能についでお存じでしょうか?」
「えっと、離れた所にいても、連絡できるっていうアレですよ……ね……」
わたしがそう答えると、明らかにケミーさんが落ち込む。
うぅ。説明好きな人なのかなぁ。
「お、教えてくださいケミーさん。フレンド機能のこと……」
そう伝えると、ケミーさんがスクッと立ち上がって、
「お任せください!」
と、眼鏡を光らせた。
「『フレンドシシテム』といいながら人差し指をフリックいたしますと、該当ディスプレイが浮かびます」
「あ、はいっ。『フレンドシステム』。あ、出ましたぁ」
ディスプレイには【フレンド名】【所在地】、それぞれの下に紅葉ちゃんの名前と、シーフギルドっていうのが書かれてる。
「相手のお名前はございますか?」
「はい」
「ではそのお名前は白い文字ですか? それともグレーでしょうか」
「白です。色に関係があるんですか?」
ケミーさんはにっこり笑って頷き、それからまた眼鏡が光った。
「名前が白で表示されているのは、現在──」
そこでケミーさんが止まった。
どうしたんだろう?
『これよりシステムモードに切り替わります』
「ほえ!?」
『ワタクシたちNPCは、この"世界"の住人としてのロールプレイを行っております。したがってシステム的なご説明の際には、モードを切り替えさせていただいております。ご了承ください』
「あ、はいっ。わ、わざわざすみません」
『いえ、これが仕事ですので。それではご説明の続きとまいります』
ふわぁ、ビックリした。
突然ケミーさんの声が変わっちゃうんだもん。
普段の声を機械処理したみたいな感じね。
システムモードケミーさんが言うには、フレンド名が白だとログイン中で、グレーだとログアウト中なんだって。
所在地の下にある「シーフギルド」は、もちろん今紅葉ちゃんがいる場所。
どこにいるかも分かっちゃうんだぁ。ほえぇー。
あ、この名前の横にある剣マークってなんだろう?
右下に[3]って書いてるけど。
「ケミーさん。名前の横に剣マークがあるんですけど、これってなんですか?」
『剣──四角い縁に対して、刃が突き抜けていますか? それとも納まっていますか?』
「ええっと、納まってます。あと右下に数字で[3]って書かれています」
ケミーさんが人差し指をつつぅーってやると、そこにわたしが見ているのと同じ剣マークが浮かんだ。
『これは職業アイコンのひとつで、シーフのものです』
「おぉ!」
『ちなみに錬金術師はこちらの──魔法陣にビーカーを被せたようなデザインがアイコンになります』
「か、かっこいい!」
『フレンド登録した相手との連絡方法はご存じでしょうか?』
……知りません。
『そのお顔ですと、ご存じないようですね』
「は、はい」
「お任せください!」
「ふぇ!?」
い、今、通常モードのケミーさんに戻った!
『こほんっ。それでは連絡を取りたい相手との通話方法をお教えいたします。しかし講義のためにお友達と連絡を取るのもなんですから、ワタクシとフレンド登録をいたしますがよろしいですか?』
「ケミーさんともお友達になれるんですか!」
『……申し訳ございません。講義終了後には解除させて頂きます』
「えぇー、そんなぁ」
お友達増えると思ったのになぁ。
『ワタクシはいつでもここにいます。分からないことがあった時も、そうでない時も、いつでもお越しください』
「う、ん。そうですよね。フレンド登録なんてしなくても、ケミーさんはお友達ですっ」
というかお姉さんかな。
『こほんっ。えーっと、フレンド申請をお出ししますね』
「はーい」
「もしもし?」
『もしもし』
フレンド登録をしている相手の名前の所をタップすると、ディスプレイから携帯通信機がにょきっと生えてくる。
普段使っているソレと全く同じ外見だけど、出来るのは電話を掛けることとメールだけ。
『一度に複数の方との通話も可能です。通信機を持った状態で他の方の名前もタップするだけですので、簡単ですよ』
「わぁ、便利ー」
『それでは講義はここで終了いたします。通常モードに戻りますが、よろしいですか?』
「あ、はいっ。ありがとうございます、ケミーさん」
ぺこりとお辞儀をすると、ケミーさんも慌ててぺこりと頭を下げた。
えへへ。
『では────という訳なんです。分かりましたか?」
「ほえ……あ、はい」
ころっと変わるんだもんなぁ。ビックリしちゃう。
「それでは依頼報酬をお渡しします」
「はうっ、忘れてた……」
ケミーさんがカウンターに小さな巾着袋と、それから錬成陣用紙を置いた。
「触れて頂ければアイテムボックスに入りますので」
「分かりました」
「それとこちらの砂と貝ですが──お時間はまだ大丈夫ですか?」
ほえ。
そ、そうだ。そろそろお風呂掃除に行かなきゃ。
「お時間がないようでしたら、こちらで保管しておきます。また来れるときにお越しください」
「はい。えっと、それをどうかするんですか?」
「はい。実際にこれを使って、錬成の練習をしていただこうと思いまして」
「なるほど!」
「それが出来ましたら、次はホムンクルスの錬成講座もございますので」
ホ、ホムンクルス!?
あぁん、今すぐ教えてもらいたいよぉ。
でもお母さんとの約束破ると、ゲームさせて貰えなくなるしぃ。
ご飯の後、急いでまた来よう!
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