第31話:見に行こう!

「え、嘘だろおいっ。一枚の錬成陣で同時にいくつも錬成できたのか!?」

「わ、私も試してみる……『錬成』──出来た!」


 蛇口の場所を教えてくれた男の人に、錬成陣一枚で錬成出来る数は一つじゃないっていうのを教えるため、実際に錬成してみせた。

 作業台の所には別の錬金術師の女の人がひとりいて、その人もビックリして同じように複数個まとめて錬成。

 ポーションを作ってたみたいで、同時に五本完成した。


「し、知らなかった……紙に乗せられるだけ乗せて良かったなんて」

「クエストで瓶を錬成するときも、一本しかやらなかったし。一本ずつしか出来ないんだろうとばかり思ってた」

「私もよ。こ、これ、NPCに情報を売れば──」

「それが、ケミーさんはレシピしか買取しないって言うんです」

「定型文の返答しかしないからね、たぶん買取不可な情報なんだろう。この子が錬金術師全員に共有したいって言ってるし、知り合いがいたら広めてやってよ」

「ですです」


 ヴェルさんが付け加えてくれて、錬金術師のお兄さんお姉さんはお互い顔を見合わせる。

 お兄さんのほうが「本当に広めていいのかい?」と聞いてくるので、わたしは「はい」と返事した。


「だって錬金術師さんは、一枚の錬成陣から一つの物しか作れないって勘違いしていて、ポーション作るのもコストがかかって大変なんでしょう?」

「あぁ。赤字だから、錬成のレベル上げのために作るぐらいしかできないんだ。でも複数同時に作れるなら、今までの赤字が嘘のように黒字になるだろうね」

「数をこなさない分、レベルは上がり難くなるかもだけどね。ふふ、でも貧乏からやっと脱出できるわ!」

「分かった。本当は情報を独り占めして、金儲けするほうが有利にゲームを進めるんだけどねぇ。ま、君が良いって言うなら、情報の共有はするよ」

「お願いします。これで少しでも錬金術師が不遇って、言われなくなるといいですよね」


 そうなるといいねと二人が笑顔になる。

 本当にそうなるといいなぁ。

 

 お兄さんお姉さんにお別れしてヴェルさんとギルドを出る。


 そう言えば、


「ヴェルさんは露店で何をしていたんですか?」

「ん。ポーション買い占め」

「か、買い占め!?」

「まぁ冗談だけど、大量買いしようとはしてたんだ。奥のエリア進むのに、ボスを倒さなきゃなくってね」


 という訳で──そう言ってヴェルさんが手を差し出す。


「その中級ってやつ、売ってくれない?」






「それで31ENで売ったのでござるか?」

「うん、そうだよ」


 ヴェルさんに中品質の下級ポーションを、一本31ENで百本販売。

 結局露店を開く前に商品が無くなっちゃったし、ちょうど紅葉ちゃんがログインしてきたので合流した。

 ヴェルさんはさっそくボス退治にお出かけ。


「店売りが30ENでござるのに、1ENしか上乗せしないとは……」

「え? ダ、ダメだったのかなぁ?」

「や、そういう訳ではござらん。某も露店を見て回ったでござるが、その中品質というポーションは見たことないでゴザル。錬金術師オリジナルで、主殿しかまた作ってないのであれば、価格は主殿が好きに付ければいいと思うでござるし」


 ただせっかくだからもう少しだけ高くすれば儲けられたのに、と紅葉ちゃん。

 うぅん。十分儲けてると思うんだけどなぁ。


「まぁそれはともかくとして。エリアの移動にはボスを倒さなきゃならないようでござるな」

「あ、うん。ヴェルさんにその話は聞いたよ。ここの次のエリアもね、大きな川の向こう側にあるんだけど──」


 その川は深く、流れも速いから『水泳』スキルがあっても泳げないんだって。

 そして川には橋が三本あって、そこを通ろうとすると、


「ボスが出てくるのでござるな?」

「うん。橋によって出てくるボスも違うらしく、相性のいい所から渡るようにってヴェルさんが」

「ふむふむ。某たちだと……魔法を使うボスはダメでござるな。それで、どんなボスが出るのでござるか?」

「うん、それがね……」


 ヴェルさんは「自分の目で確かめてご覧」って。

 自分で見て判断して、その方が冒険っぽいから楽しいよって言うの。

 うん、その通りだとわたしも思う。


「だから一緒にボス見に行こう」

「でござるな」

『んぎゃ』


 つい癖で町の中を駆けだしたわたしたち。

 すると紅葉ちゃんが突然──「あっ」と声を上げた。


「どうしたの紅葉ちゃん」

「そ、それが……ス、スキルが発生したのでござる」

「スキル? あぁ、走り込みだね」

「し、知ってるでござるか!?」


 ふっふっふ。何を隠そう、わたしは既に持っているのだ。


「よぉし、走ろう~っ」

「お、お~っ」

「あぎゃ~っ」


 どっどっどっどっと走るラプトルさん。

 ラプトルさんも走り込みスキル持ってるのってぐらい早いけど、でもスキルにそれはなかったしなぁ。

 単純に足が速いのかな。


 川は町の北側にあって、その川が東西にずーっと伸びてるんだって。

 わたしが砂や貝を取りに行ってた川は、その川の支流。あそこは浅いから歩いて渡ることも出来る。


「一番近い橋は、町から真っすぐ北にあるんだって」

「ではそこから行くでござるか」

「そだね」


 ソーマ草が咲く草原を抜けると、その奥には森がある。ここを超えると川があるっていうんだけど……。


「簡単には抜けられないという訳でござるな」

「う、うん。えぇっと──コボルト?」


 二足歩行の毛並みがちょっと残念な犬。そんな感じのモンスター。

 でもこの子、モンスターなのにこん棒とか持ってる!


『ワウワウワウワウッ』

『あぎゃーっ』

『ワウワウワワンッ』

『しゃーっ!』

『キャインキャインッ』


 コボルトさんとラプトルさん、お互い吠え合った(?)あと。

 ラプトルさんの一撃でコボルトさんは倒れちゃった。


 森の中ではコボルトさんの他にもいろいろモンスターがいて、半分ぐらいは向こうから襲ってくるの。

 紅葉ちゃんと森で再会した時みたいに、何匹も囲まれることも──


『あぎゃーっ』

「……ラプトルさんが強すぎて、苦戦ってなんだろうそれって気分になっちゃうね」

「そうでござるな。でもここは敵の数も多く、ほどよく某たちも攻撃できるから丁度いいでござるよ」

「そうだね。えいっ」


 わたしと紅葉ちゃんで一匹倒している間に、ラプトルさんが二匹倒す。

 ラプトルさんがいなかったら、わたしと紅葉ちゃんだけだとこの森を越えられなかったかも。

 

 そうして越えた森の先には橋が架かっていて。

 今まさに、その橋を渡ろうとするプレイヤー五人の姿が見えた。


「これはいいチャンスでござる。どんな敵が出てくるのか、見させてもらうでござるよ」

「う、うん」



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