第5話:ギルドのクエスト

 習得しているスキルのうち、どれか一つでもレベルが2になると受けられる講習。

 それを受けることで、セカンドジョブ──つまりサブ職業を得ることが出来るんだって。


「セカンドジョブとは生産職のことで、それを取るか取らないかは個人の自由です」

「そのセカンドジョブに薬師ってのがあるんですか?」

「はい。生産特化の職業でございます」


 生産職が作る物は、手間暇をかけて作ったもの。

 ポーションを例にあげると、薬草を水洗いして乾かして、お湯で煮詰めて出来た液体を瓶詰めする。

 それを錬金術師は、薬草と水と瓶を錬成陣の上に置いて手を突くだけで出来ちゃう。

 繊細な作業工程を省くことで、素材の良さを引き出すといったこともできず──


「ですから、回復量は量産品である雑貨屋が販売する物と同じなのです。しかし考え方によっては、錬成で作るポーションは雑貨屋のポーションぐらいの価値はあると!」

「そ、そういう考え方も、あるんですね」

「はいっ。まぁそういうことですので、INTもあった方がいいですよーってことです。あ、生産を行わないのであれば必要ありませんけどね」


 うぅー、わたしは必要だよぉ。

 ステータス、全部DEXに振っちゃったし。

 このゲームは職業レベルがないから、レベルアップでステータスポイントがーってのもないし。

 そうなるとINTを上げるスキルは絶対必須!


 それでも──薬師さんの作るポーションには敵わない。だいたい薬師さんのポーションはスキルレベルが低くても、こちらの二割増なんだって。

 こっちもINTやスキルレベルが上がることで最30%アップするけど、薬師さんも同じようにアップする。

 最大値はいつだって向こうが上ってこと。

 でも、INTを上げれば店売りポーションよりは効果が増えるんだし、あったほうがいいよね!


「研究の販売価格が15000ENかぁ」

「生産を行うなら必須ですねぇ。それでも本職には敵いませんが」

「ですよねー」

「はぁ。広く浅く、なんでも出来ちゃう錬金術師だっていうのに、何故こうも人が少ないのでしょうか」

「え、錬金術師って、少ないんですか?」


 今度はケミーさん、眼鏡を光らせることなく「そうなんですよ」と呟く。

 

「私がここに配属されて40日ほどですが、その間にここを訪れた錬金術師は、あなたを含めて──131人なんですよ」

「131人って少ないんですか?」

「次に不人気職である格闘家は2573人です」


 錬金術師の二十倍!?


「す……少ないんですね、錬金術師さん」

「錬金術師じゃなくても生産は出来るから! という理由かららしいです。悲しいですね」

「か、悲しいですぅ」


 そんなぁ。錬金術師が少ないなんて……。


 ん。

 でもそれなら、錬金術師のお店屋さんも少ないってことになるよね!


 ふっふっふ。ライバルが少ないってことじゃないですかーっ。

 うん。頑張っちゃうもん!


「さて、ここまで販売スキルのご説明でしたが、続きまして──」

「ほえぇ! ま、まだあったぁっ」

「という訳でして、ホムンクルスをいかに早く錬成できるかが、錬金術師には求められます」

「ほ、ほえ」


 ホムンクルス──人工生命体。

 ギルドで販売されているエンブリオと呼ばれる核に、いろんな素材を混ぜて錬成して生み出せるパートナー。

 錬成に成功したホムンクルスは、エンブリオの状態のまま。

 エンブリオが卵みたいなもので、孵化させるスキルが『コールホムンクルス』。

 ある程度体力を消耗すると、自動的にエンブリオに戻ったりするんだって。そしたらまたこのスキルで呼び出さなきゃいけないの。

 もちろん任意でエンブリオに戻すこともできて、そのスキルは──ない。


「命令すればエンブリオに戻りますから」

「命令……お、お願いするのでもいいんですか?」


 わたしがそう尋ねると、ケミーさんが硬直。

 暫くして「それでもよろしいと思いますよ」と笑ってくれた。


 今の間、表情も一切動かなかった。

 時々こうやって、あ、NPCなんだなぁっていう瞬間がある。


 現実のようだけど現実じゃない。

 でもだからこそ、楽しいって思えるのかも。


 ながーいケミーさんの話を終えて、いざ冒険の旅に!

 って時に。


「錬金術師ギルドから仕事の依頼があるのですが、受けてみませんか?」

「お仕事ですか?」

「はい。報酬も弾みますよ」


 ほ、報酬!?

 お金貰えるのかなぁ。お仕事だもんね、アルバイト代ぐらいでるよね。


「受けますっ。受けさせてください!!」

「はぁ、よかったぁ。先ほども言いましたが、錬金術師が少なくって、依頼を受けてくれる方もいらっしゃらないから、溜まっていたんですよぉ」

「溜まって……」

「はいっ」


 眼鏡をキラーンっと輝かせるケミーさんを見て、なんとなーく嫌な予感がしました。






「えぇーいっ」


 ケミーさんからお仕事を貰って町の外へ。

 そこでまずはスライムさんをリボンでピシピシします。

 新体操のリボンでピシピシしたって痛くもなんともないんだけど、元が鞭だからちゃんとダメージ出るんだよぉ。


 二回攻撃で倒せるので、すっごく簡単。鞭って結構強いんじゃないかなー。

 そんなことを思っていると、近くでわたしと同じような、今日から始めましたって感じの人が剣でスライムさんを一突き!

 スライムさん、ぼわんって音と一緒に弾けちゃった……。


 け、剣って強いんだね。

 でもあのぶにゅっていうのは気持ち悪くて嫌。

 わたしはわたし!

 さぁ、頑張るぞぉー。


 スライムさんから『粘着剤』というアイテムを30個集める。

 それが一つ目のお仕事。

 あと時々スライムさんがおっことす『綺麗な石』が5個。これが二つ目のお仕事なんだけど……。


「石出ないよぉ~」


 鞭でピシピシピシピシ。

 粘着剤がそろそろ30個になるっていうのに、石1個しか拾ってないんだけどぉ。

 

 でも負けないもん!

 頑張って頑張って──石が5個集まる間に、粘着剤は129個になっちゃった……。


 さ、さぁ、次行こう!

 えっと、次のお仕事は……。


 お仕事の依頼を受けると、インターフェースにある『クエスト』っていう欄に内容が出てくるんだけど、それとは別にケリーさんがメモ紙をくれたの。

 行ったり来たりしないで済むようにって、メモには町から近い順にお仕事の名前が書いてくれた。


 受けた依頼は全部で10!

 次はお花畑で花摘み。赤いお花、青いお花、黄色いお花、白いお花を、それぞれ50本ずつ!


 モンスターが落とすアイテムは、拾おうとして触ると消えちゃって、その時点で自動的にアイテムボックスに入る仕組み。

 でもお花はどうなるんだろう?


 お花畑まで行って赤いお花をまず摘み取ってみると、プチって摘んだ瞬間に光になっちゃった。


「アイテムボックス──」


 人差し指をつつぅーっとしてアイテムボックスの画面を開くと、収集品ってタブの一番下に『赤い花』のアイコンが。

 ほほぉ。これが楽ちんですねぇ。


「よぉし。さっそく禿散らかしちゃうぞーっ」



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*基本的には1日1話更新ですが、掲示板回など本文ではない回は

前後どちらかのお話と同日に更新いたします。

6話目が掲示板回となります。このあとお昼12時に追加更新いたします。

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