第13話:お姉さん

「これ見てよ。スリット深すぎると思わない?」

「そ、そうですね。でもお姉さんなら似合いそうですよ」


 お姉さんの種族はヒューマン。つまり人間。

 わたしがハーフリングだからなのか、凄く背が高く見える。

 赤紫色の鮮やかなストレートヘアー。わたしとちがってボン、キュ、ぼんな羨ましい体形。

 チャイナドレスが絶対似合う!


 だけどこのお姉さんは、あまり気に入ってないみたい。


「似合う似合わないかの問題より、恥ずかしいか恥ずかしくないかの問題だねぇ」

「あ、そういうことですか。た、確かに恥ずかしいですよね。太ももばっちり見えちゃいますもん」

「これね、下半身のデフォルト装備は網タイツなんだよ」

「網……な、なにか狙っている気が……」

「そう思うだろーっ。だから私はズボンを穿いているんだよっ」


 あぁ、なるほど。足を出すのが恥ずかしいからズボンなのかぁ。

 ここでお姉さんが頭をペコりと下げて、その上で手を合わせた。


「そこで君にお願いっ。まずこのチャイナドレスを、男物の漢服──えぇっとカンフー服に錬成して欲しいんだ」

「カンフー服、ですか?」

「ほら、足りない袖の布は、スカートの部分を使えばいいだろう?」


 ふむふむ。できそう。

 赤地に金色でお花の刺繍があるけど、男物がいいっていうから──これは龍にしちゃうとか!

 うんうん。東洋風の龍が、あんぎゃーってうねうねしてるのをイメージしようっと。


「イメージ固まりました。でも布の色とかはそのままなので、赤いカンフー服になると思います」

「うんうん。そこは仕方ないよ。あるものの形を変えるだけだからね、錬成ってのは」

「はい……染料とかあったら、色も変えられるのかなぁ」

「染料は生産ギルドの裁縫組合にいけば売ってるよ。たぶん素材からも作れると思うけれどね」

「本当ですか! あ、錬成しちゃいますね」


 と思ったけど、ここじゃあ人に見られちゃう。

 

「ひ、人の少ない所に行きましょうか?」

「ははは、そうだね。じゃあ路地裏にでもいこうか」

「はいっ」

「くくく。可愛い女の子を路地裏に連れ込むなんて、ぞくぞくするねぇ」


 はぅっ。お、お姉さん……。

 ついて行っていいのかなぁと思ったけど、相手は女の人だもん。変なことされたりしないよね。

 うん!


 道幅の狭い路地に入って行って、その一番奥の行き止まりの場所で──


「まぁこの辺りならいいかな。装備を脱いで渡せばいい?」

「はい。お願いします」


 お姉さんがチャイナドレスを──ぬ……あれ、チャイナドレスが一瞬でブラウスになっちゃった。


「ん? どした」

「あ、えっと。どうやって着替えたんだろうと思って」

「着替える? いや、アイテム欄をドラッグ&ドロップするだけでいいじゃん?」

「……そうでした!」

「はっはっは。時々ゲームと現実が分からなくなるんだろう? VR初心者みたいね。君」

「えへ、えへへ」


 お姉さんから受け取ったチャイナドレスを、残り四枚の『お試し用錬成陣用紙』に載せてっと。

 もう一度しっかりイメージしなおして……金の龍、上手くイメージできるかなぁ。

 うねうねとした東洋の龍。


「ヨシ! レッツ『錬成』!」

「レッツ?」

「ほえっ。いやあの、えへ。えへへへ」


 錬成陣用紙に両手を突いて、出来上がったのは──


「ほぉ。いいねいいねぇ。花の刺繍は雲模様になったか」


 ……どうしてか、イメージした龍とは違う、ぐるぐると渦巻いたデザインの雲になってました。






「ほいっ"気功"」


 お姉さんは格闘家で、武器は鉄製の大きな扇。

 もうっもうっ、カッコいいよぉ。

 そんなお姉さんと今、川にピクニックに来ているのだぁ。


「ふわぁ。お姉さん、このふわふわぁっとしたの何ですか?」

「うん。それは気功玉と言ってね、それがある間は物理攻撃力が少し上がるんだよ。他人に分けてあげることもできる、便利なスキルさ」

「ほえぇ」

「ところでミントちゃん。そのお姉さんっての恥ずかしいんだけど……。ヴェルって名前も頑張って考えたんだから、そっちで呼んでよ」

「す、すみません、ヴェルさん」

「ん。じゃあ狩るかーっ」


 チャイナドレスの錬成のお礼にって、ヴェルさんが砂と貝集めを手伝ってくれることに。

 よかったぁ。これで石灰も買わずに済むかもぉ。


「えいっ──」


 ぽわぽわぁっと気功がわたしの周りをぐるぐるしている間、少しだけ攻撃力が上がるってけど。

 おぉ!

 紅葉ちゃんと二人で来た時には、貝に10しかダメージを出せなかったけど、今度は12になってる!


「ミントちゃん、それ……なに? もしかしてそれも錬成?」

「それって、このリボンですか?」


 こくこくつ頷くヴェルさん。

 革の鞭を錬成したんですって話すと、ヴェルさんビックリ。


「へぇ。そういう発想かぁ。ふむふむ。あ、でもそれ、キャラ作成で貰う鞭だよね?」

「はい」

「攻撃力が弱いからね、早めに新しいのと交換したほうがいいだろう」

「で、でも。まだお金も少ないですし……」


 シジミ貝のモンスター『シジミン』を倒して貝をゲット!


「いくら持ってるの?」

「えぇっと、さっきお仕事をして3000ENになりました。でもスキルとか、エンブリオとかも欲しいですし」

「なるほど。ホムンクルスは早めに錬成したほうがいいだろうね。アタッカーとヒーラーがいれば、少々狩場ランクを上げても問題なくいけるから」

「ホムって、そんなに強いんですか?」


 わたしと違ってヴェルさんは、シジミンを鉄扇一撃で倒してしまう。しかも凄くゆるーい感じで倒しちゃうの。

 きっと物凄く強いんだろうなぁ。


「ホムの強さはどんな素材を集めたか。あとはイメージにもよるみたいだよ。だからかねぇ、ドラゴンっぽいデザインのホムンクルスが多いみたい」


 そう言ってヴェルさんが笑う。


「あとヒールタイプは幼女が多いね」

「よ、幼女……」

「まぁ深く突っ込まないほうがいいんだろう。そういうホムンクルス連れてる男には、絶対に近づくんじゃないよ?


 ヴェルさんの言葉に、今度はわたしがこくこくと頷く番。


 イメージが大事……。

 確かにドラゴンは強そう。

 でもドラゴン連れの錬金術師が多いみたいだし、じゃあわたしは他の子にしたいなぁ。


 怪獣──うぅん、リアリティがないなぁ。

 

「そうだミントちゃん。知り合いの生産職を紹介しようか?」

「ほへ?」

「素材を持っていけば、鞭を作ってくれる奴がいるんだよ。鞭は革素材だから、少し余分に持っていけば手数料もタダにしてくれる。ね、どう?」

「タ、タダ!? あ、でも革素材……」


 ヴェルさんが「あっち」と言って指さす。

 あっちには草原があって、そこには──


「豚さん?」


 ──がいた。



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