第4話 兎道具屋
引っ越してから早3週間が過ぎた。ハンモックの寝床にも慣れ、獣道の分岐を時々間違う事以外どうにかこうにか生活出来ている。
皐は森を出たバス停から更に1時間かけて貸し本屋に通っていたが、店の主人が急逝して職を失い、目下求職中である。
森の入り口にある、茶色く四角い二階建ての建物は、道具屋であった。皐はそこへ行く事もムトウから禁止されていた。俺は一人で『兎道具屋』と書かれた暖簾をくぐった。
「いらっしゃいませ」
奥のカウンターにお腹の大きな黒髪のボブへアの女性が店番をしている。
「こんにちは。ええと、薪割り用の斧はありますか?」
「はい。こちらに」
昔ながらの木の柄の和斧の隣に、スタイリッシュな洋斧が並んでいる。
「使いやすいのはどれですか?」
「初心者の方でしたら柄が短めで重すぎない……これなんかはどうでしょう?」
手に取ってみると、まあまあ重い。
「意外と目方がありますね。女性でも持てるかな……」
色白のボブへアの女性はクスッと笑って、
「2キロも無いですよ。女性ならこれぐらいが良いと思います。だって筋肉痛になってしまうでしょう?」
と円らな瞳を三日月のようにした。
「彼女は逞しいので問題ないかな。むしろ私の方が筋肉痛になるかもしれません」
「ふふ。これは一体型ですので、先が抜けることが無いですし、持ち手もカーボンで握りやすいですよ」
彼女の言葉に即決して、ついでに店内の狭い通路を殆ど回り、トタン屋根の錆を削る為に握りやすそうなスクレーパーを一つ選ぶ。
「アルバイトを募集してるんですか?」
代金を支払うと、控えめに貼られている求人募集に目が止まった。
「ええ、もうすぐ臨月なもので、お手伝いしていただける方を探しているんですの。でもなかなか良いご縁がなくて、もう、産まれてしまいそうですわ」
清楚な女性は微笑むと、お腹を擦った。
「知識は無くても大丈夫ですか?」
「ええ。でも、お時給は少ないですし、その……交通費もお支払出来ませんの」
彼女は俺の身なりを見て、首をかしげる。
「いえ、私ではありません。
「はあ。でもお嬢さんにはこの仕事は辛いと思いますわ。道具類を運んで陳列して、時には重い工具の積み込みも致しますの」
「その点は大丈夫です。あの、一度面接していただけませんか?」
俺は直感で勝手に話を進めた。皐がこの店に入れなかったのはムトウに都合が悪かっただけだ。
「そういう事でしたらお会いしてみたいわ。明日にでもいらしてください」
「ありがとう、私はこういう者です」
俺は名刺を取り出すと、彼女に渡した。
「丘開発……みどり園の経営者の?」
「はい、みどり園も手掛けています」
みどり園は珍しい植物を園内の至る所で見ることが出来る、街唯一のテーマパークである。最近子供向けのアトラクションが増え、幅広い年代の支持を得ている。
「まあ……そんな方がうちに足を運んでいただいて、ありがとうございます」
「私はこういう雑多な雰囲気の店が大好物でして。これから贔屓にさせていただきます」
「まあ、それはありがとうございます。私は
彼女はにっこりと微笑むと、商品を入れた紙袋にサービスで錆とり液を追加した。
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