おとぎ話

翔鵜

プロローグ  路地裏

「おい、そこの君」

 その娘は酒の小瓶を片手に路上にしゃがみこんで、夜空を見上げていた。

「何だ、あたいと遊びたいのかい?」

 彼女は俺を見定めるとにやりとした。

「この辺りに住んでいた『ナツミ』という三十代の女性を捜している。知らないかな?」

 ナツミとは正反対の雰囲気を纏うその娘に、何故声をかけたのかはわからない。強いて言えば自販機の灯りに浮かぶ彼女の銀髪があまりにも美しく、ナツミの艶やかな長い黒髪を思い出させたからかもしれない。

「おじさん、いくら持ってる?」

 透明の液体を飲み干して、律儀に蓋と瓶を分別してゴミ箱に捨てると彼女は言った。

「君の言う値を出そう」

 俺に対する値踏みがいくらかは知らないが、金が欲しいなら、くれてやれば良い。

「ついてきなよ」

 彼女は目配せすると、路地裏へ入っていった。後に続くと、はち切れそうなスリムパンツの尻が俺を誘惑したが、積もった疲労を忘れさせてくれるほどのものでは無かった。

 人通りはまばらにあったが、俺達に気を止める者はいなかった。救急車のサイレンと遠吠えが、ビルの向こう側から聞こえていた。






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