二学期

第21話 転校生

 夏休みが終わり、いよいよ今日から二学期が始まった。久しぶりに制服を着ると堅っ苦しさを感じる。クラゲのキーホルダーの付いた学校指定のカバンを肩にかけながら電車に乗る。車内にはすでに多くの生徒が並んでいる。夏休みの出来事を話している人や旅行自慢をしている生徒など様々。


 俺は一人降りるホームの窓際に立ってそれらの話に聞き耳を立てていた。


 学校の最寄り駅に着くとすぐには学校に行かず、外の階段付近で人を待つ。その間スマホのニュースなどを閲覧していた。


「裕二くん!」


 スマホをずっと見ていて彼女の気配に気づかなかった俺は手に持っていたスマホを滑らせた。それを見ていた彼女が両手で器を作ると俺のスマホをキャッチした。


「ごめん、ありがとう」


「こちらこそ、脅かす気はなかったの、ごめんね」


 挨拶もしないでお互いに謝罪の言葉を口にする。彼女からスマホを受け取ると俺たちは学校の方に歩いて行く生徒の中に紛れ込んだ。




「じゃあ、またお昼に屋上な」


「うん、忘れないでね」


 俺は自分の教室の前で彼女と別れると教室の中に入った。


「おはよう」


 教室にいるみんなに挨拶すると男子がスマホを携えて集合した。


「裕二くんや、この写真の説明をしてもらおうか」


 クラスメイトの一人がスマホの画面を俺に見せてくる。そこに写っているのは町中を歩く俺と純恋だった。


「え~っと・・・」


「言い逃れはできないぞ」


 本当にその通りだった。学校帰りにたまたまならまだ誤魔化しようがある。たまたま会ったからとか、用事があったからとか。でもお互い私服で町を歩いている。たまたま会ったなんて嘘にしか聞こえない。


「さ~、どうなんだい」


 これ以上誤魔化す必要はないと俺は判断した。別に隠したいわけではないし、さっきも教室まで二人で上がって来た。隠す気があるなら通学路を一緒に歩いたらはしない。だから俺は目の前の男子に言い放った。


「付き合っているよ」


 その答えに目の前の男子がドミノのように倒れて行った。


「おはよう、ってどうした?」


 後から入って来た大智が目の前の光景に疑問を投げる。


「裕二が鬼条さんと付き合ってるって・・・」


「ああ、そんなことか」


 それを聞いた大智はなんでもない顔をした。


「俺、結構前から知ってたぞ」


「いつから!」


 その答えにほかの男子ではなく、俺が聞いてしまった。大智は首を傾げながら思い出そうとしている。


「確か期末テストん時だったな。俺、家がこの辺だから勉強しに図書館に行ったら二人で向かい合って勉強してた時だな」


「その時はまだ付き合っていなかった」


「でも好きだっただろ?」


 俺は無言で頷いた。


「何があった、お前ら?」


 担任が教室に入って来て俺の前に倒れている男子を不思議そうに見つめる。


「いえ、なんでもないです」


「そうか、なら席に着け。ちょっと早いがホームルームを始める」


 その言葉に倒れていた男子がしおれながらも席に着いた。


「今日は始業式の後、ロングホームルームをして終わりだ。連絡事項はない。だが・・・」


 そこで担任は廊下の方を見た。


「今日は編入生を紹介する。入ってきてくれ」


 その言葉に入り口のドアが開く。みんなが声も上げず入って来る生徒を見ている。


 ショートボブの金髪の髪に可愛らしい大きな目、プルンと弾力のある唇。身長は低い女の子が教壇に上がった。担任は白いちょうくを手にすると彼女の名前らしきものを書き始めた。


「今日から同じクラスになる小野鬼おのき優佳ゆうかさんだ。東京から引っ越して来たそうだ。仲良くしてやれ」


 担任の簡単な紹介の後、彼女も礼をして自己紹介をした。


「小野鬼優佳です。優佳って気軽に呼んでください。よろしくお願いします」


 笑顔で話し終えた彼女に拍手が贈る。彼女はクラスを一望する。皆が拍手する中、俺と彼女の目が合うと彼女はそれから担任に「空いている席に着いて」と言われるまで目を逸さなかった。俺はそんな彼女を不思議そうに見ていた。


 ホームルームが終わると女子が一斉に小野鬼さんの元に集まった。転校生あるあるだ。彼女は女子に全方面から囲まれた。男子も彼女に近付こうとするが外周にいる女子に拒まれていた。


「何で東京から来たんだろうな?」


 席に座って一連の流れを見ていると大智が前から歩いてきていた。


「さぁ、家庭の事情だろう」


「そうだろうけどさ」


 俺たちは彼女に直接聞かず想像を膨らませた。俺たちが聞かなくても今集まっている女子が聞いているだろうし、その話はいずれ俺の耳にも届くだろから。

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