第15話 水族館編 1
翌日、朝からセミの鳴き声を聞きながら玄関を出る。平日なので両親はすでに家にいない。朝会ったときに出かけてくるとだけ伝えてある。
玄関を出ると容赦ない日差しが降り注いでくる。おでこに手を当てながら少し影を作って空を見上げる。雲一つない快晴、最高のデート日和だろう。振り返り玄関のカギを閉めると家を出た。
駅に着くと平日とはいえ多くの人が行き来している。いつもは定期券で電車を乗るのだが、今日行く場所は定期の範囲外なので乗車券を購入する。
それを駅員に見せ、ハンコを押してもらうと改札を通り抜ける。
階段を上がりホームに出るとすでに列ができている。時間もよかったようで見えるところに電車の先頭が見える。アナウンスがホームに聞こえるとスマホをいじっていた人たちが一斉に顔を上げる。俺も電車に乗るため列に並ぶ。
電車が着くと多くの人がこの駅で降りていく。一方で乗る人はその半分ぐらいの人数しかおらず、思いのほかスペースが開いている。座れはしないが、ほかの人との間に余裕がある。
電車のは扉を閉まるとゆっくりと走り出した。それと同時にスマホをポケットから取り出す。鬼条さんに乗って電車の車両を伝えるためだ。
(今、前から三番目の車両に乗った)
送り終えると彼女から短い返事が返って来た。
(わかった)
それから二駅分電車で揺られた。立っているのも大変だったので二人席に腰を下ろし、横のボディーバックをおいて席どりをした。
彼女のいる駅に着くと少し腰を上げた。彼女がどっちから入って来るかわからないし、車両を変えたのかと違う車両に行かないように。
車内からこの駅で降りる人が全員出て行くと待っていた人が中に入って来る。俺は先頭に近い方の扉を見ている。スーツのおじさんやイヤホンで音をシャットダウンしている女の子らが入って来る中、そこには彼女の姿があった。
彼女と目が合うと彼女は俺のもとに来た。
「おはよう」
「おはよう」
彼女と直接会うのはあの日以来だ。学校での彼女とはやはり違う。今日はポニーテールの髪に白地にワンポイントのカジュアルなトップスに青いロングスカート、黒のスポーツサンダルに黒いおしゃれなリュックを背負っている。
自分がさっき座っていた席に座ると横に置いていたボディーバックを足の上に載せる。空いたスペースに彼女が腰を下ろす。髪がなびくと彼女からいい匂いがした。
前回私服の彼女に会ったときはまだ友達だったから言うのはやめたが、今は付き合っている。だから服の感想を告げてもいいよな。
「いつもと違って可愛いね」
車内なので小声で言う。さすがにほかの人に聞かれるのは恥ずかしい。
彼女の耳の近くで言うと彼女は耳まで赤くなった。
「ありがとう」
赤くなっている彼女の顔を初めて見た俺は心がドキッとした。もしかしたら告白した時もこんな顔をしていたのではないかと想像してしまう。
そう思うと少し頬が緩む。
それから電車に揺られながらいつもの屋上の時のようにたわいない会話をして過ごした。宿題の難しかったところとか、この三日間にしたこととか。
目的地までは50分かかるはずだったが、彼女との会話が楽しかったからかあっとゆう間だった。
「着いたね」
長いこと電車に乗っていたから体が固まっていたいたのか彼女は駅を出ると大きく背伸びをした。
「熱いからバスで行こうか」
背伸びを終えて振り向いた彼女に告げる。駅に置かれた温度計は28度を表示されている。歩いても全然いける距離だが、この暑さを歩くのは少しつらい。
「そうだね」
俺たちはバス停の前に並ぶとタイミングよく来た海響館前行きのバスに乗った。バスの中はもちろんクーラーがかかっていて居心地がよかった。
目的地に向かう間にはいろんな店が並んでいた。駅近くということで大きなモールやおしゃれな服やアクセサリーの並んだ専門店、おなじみのジャンクフードの店も見える。
それらの店を後で入ってみようと約束しながら水族館に到着した。
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