第31話 文化祭準備 1
いつものように純恋と駅で待ち合わせをして登校した水曜日、今日は担任が楽しそうに教卓に立った。その様子に何人かの生徒がウキウキと担任の一言を待っているようにも見えた。
「今日の六時間目の総活の時間に半月後の文化祭に向けての係りや出し物を決めたいからそれまでにそれぞれが考えておいてくれ。伝達事項はそれだけだ」
担任の伝達が終わると席を立って礼をした。担任はスタスタと教室を出て行く。ドアが閉まると教室内では一気に賑やかになった。それは俺の周りも例外ではなかった。
「裕二、文化祭の出し物の案なんかあるか?」
席に座って周りの人達を見ていると大智が俺の席の前に来ていた。
「文化祭って言われてもな~・・・」
中学では学校でやった地元の歴史や環境などの発表をしていた。高校の文化祭には一度も行ったことはないが、漫画でよく出ているようなものを言えばいいのだろう。
「お化け屋敷とか?」
「そうだな、あと喫茶店とかだろう」
「その辺が妥当だろうな」
ありきたりとは思うかもしれないが、独特なものを出して失敗するよりはいいような気がする。
ほかのクラスメイトも同じような提案をしているのが聞こえてくる。
「みんな同じ案らしいな」
「そうみたいだな、これならすぐに決まりそうだ」
朝から何時間も後の話で盛上がっていると1限目の先生が来たので俺たちは解散し、それぞれの席に着いた。
昼休みが始まると久しぶりに購買でパンを購入してから屋上に向かった。今日は珍しく焼きそばパンが残っていたのですかさず購入した。
購買のビニール袋をぶら下げて屋上に行くと純恋が弁当を膝の上に置いて雲一つない快晴の空を日陰から見上げていた。
「お待たせ、ごめん遅れて」
「気にしないで。さっきまで教室でみんなと話していたから」
俺は彼女に近付くと彼女の右側に腰を下ろした。
「今日も天気いいね」
「うん、それに気温もちょうどいいから眠くなってくるよ」
「食後に少し寝る?肩貸すよ」
「う~ん、少しだけ」
「じゃあ早く食べようか。寝る時間なくなるから」
俺は買って来たばかりの焼きそばパンを取り出す。彼女も持参のお弁当の包みを外すと弁当箱を開けた。
「純恋は文化祭にやりたいこととかあるの?」
今日クラスのほとんどがしていたであろう話題を彼女にも振ってみる。
「私は・・・ないかな。みんなで楽しく出来たらそれだけでいいと思ってるから」
「まぁ、そうだな。誰か一人が楽しむもんでもないしな」
「じゃあ逆に裕二くんは何かしたいことあるの?」
首を傾げながら聞いてくる彼女の質問に口に入っていた焼きそばパンを飲み込んでから答える。
「特にこれってものはないかな。でも当日は他のクラスを回るぐらいの時間を取れるものがしたいな」
「それは大丈夫だと思うよ。さすがにずっと活動するところなんてほとんどないと思うから」
「そうだといいな。御馳走様」
焼きそばパンしか買わなかったので純恋が弁当を半分食べ終える前に食べ終えてしまった。
いつもなら菓子パンを数個買ってくるのに今日は一個しか買っていない俺を彼女は訝しみながら見てくる。
「ダイエット?」
「してると思う?」
「ううん、思わない」
「たまたま好きなパンがなかったから買わなかっただけ」
「どんなパンが残っていたの?」
俺はついさっきの記憶を遡る。
「確か・・・イチゴシャムパンとフランスパン、ちぎりパンに新作のドーナッツだったかな。メロンパンとクリームパンの姿はどこにもなかった」
「そうなんだ、メロンパンとかいつも購買行ったら買って来るからどうしたのかなってずっと思ってた」
「ないものは手に入らないからね」
話をしながら彼女は野菜ジュースを飲んだ。もちろん中身は違う。俺たちが飲んで体の栄養になるものではない。
「今日は吸血日なんだ」
「うん、朝からちょっと疼いちゃってね」
彼女が血を飲む日を俺は勝手に吸血日と言っている。その日の症状としては朝から血が無性に欲しくなるというものらしい。
俺が自分から彼女に血をあげて以降、彼女は一切俺の血を飲んでいない。ちゃんと忘れないように家から持って来てはこうして飲んでいる。
小さいお弁当を食べ終え、閉めに血を飲んだ彼女は弁当の蓋をすると手を合わせて軽く頭を下げた。
「御馳走様でした」
彼女は姿勢を戻すと俺の方を見た。
「いいんだよね」
彼女が何を言っているのかすぐに理解した俺は彼女に笑顔を向けた。
「いいよ」
彼女は俺との距離を縮めると肩に頭を載せた。肩にほんの少しの体重と温もりを感じる。時々吹く風が彼女の髪をなびかせ、フレグランスの香りが鼻孔をくすぐる。俺は寝ようとしている彼女の顔を見る。
この学校に入学して初めて彼女を見たとき、俺は彼女とこういった関係になるとは想像もしていなかった。入学してどんな友達ができるだろうか、勉強はついていけるだろうか、そんなことばかり考えていた当時の俺に教えてやりたい。どんな反応をするのか俺のことなのにわからない。
そんなことを考えていると横から寝息が聞こえていた。どうやら本当に寝てしまったらしい。寝息を立てて寝ている彼女を見ていると自然とあくびが漏れる。体をなるべく揺らさずにポケットからスマホを取り出す。ロック画面で時間を見ると昼休み終わりまで十分以上あった。
スマホのロックを解除した俺は時間が来るまで他校の文化祭の催しものの写真を見ながら六時間目の案を考えることにした。
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