第30話 女子トーク


 私が転校して来てから三週間目に入った。クラスのみんなは何かと私に優しくしてくれるので私がクラスに馴染むまでそう時間は掛からなかった。


 授業中、黒板を見るといつも視界に宮岡くんを捉えてしまう。彼とは転校初日に学校案内をしてもらって以降一言も話していない。


 彼からは私と同じようなにおいがした。確かにしたのだ。同類ならすぐにわかる独特なにおいが。


 でも彼は私の質問の意味を分かっていなかった。いや、わかっていてあえて答えなかったのかもしれない。でも彼が私と同じならにおいでバレていることぐらいわかるはず。


 彼に一度視線を向けるとどうしてもこのことばかり考えて、気づけば授業が終わっていたってことが何度かあった。彼に直接聞きたいのはやまやまなのだけど、彼が同類で私にそれを隠しているなら何かわけがある気がする。彼が本当に同類でないのなら、私は自分の正体を部外者に教えることになってしまう。そう考えると簡単に彼に声を掛けられないでいた。


 お昼になると彼はいつも教室を出て行く。どこに向かっているのか気にはなるが、自分がストーカーしていると思うと罪悪感しか湧いてこないのでやっていない。


 だから今日も彼が教室を出て行くところを目で追うだけしかできないでいた。


「小野鬼さん、今日も一緒に食べよう?」


 黒板側の出口の方を見ているとその視界にお弁当を持った女の子が二人現れた。彼女たちとはいつも一緒にお昼を過ごしている。最初はもっと人がいたのだけど、転校生というタグが外れるとみんなが各々のグループに分かれていった。そんな中で彼女たちだけが毎日私を誘ってくれた。


 もし彼女たちが誘ってくれなかったら今頃自分からどこかのグループに入っていたと思う。


 持ってきた弁当箱を軽く持ち上げて聞いてくる彼女たちを見ながら笑顔を見せる。


「いいよ」


 彼女たちは横と前に開いていた席から椅子を借りると私の机の上にそれぞれの弁当箱を置き、弁当箱を開けた。


「二人はどうだった?」


「どうだったって?」


「今日やった英語の単語テスト」


 彼女たちは今日やって英語の話題を持ち出した。週に1回、英語の時間に5分間で英文にある空欄を日本語を読みながら解くテストが行われている。テスト範囲はテストが終わった後に配られるプリントから20問出されるというもの。


「あ~、あれね。私は大丈夫だったよ」


「いいな~、小野鬼さんは?」


「私も合格したよ」


 このテストは意外と面倒で問題を5問間違えると放課後の補修が待っているらしい。その日にやったテストで100点を取ればすぐに帰れるらしいが、それまでずっと同じ問題を解かされるらしい。


「そっか~、いいな~」


「ということは、つまり・・・」


 話題を振った彼女は箸をおいて胸の前で腕をクロスした。


「やっちゃったか」


「ドンマイ」


 私たちはそう言ってあげるしかなかった。


「ちなみに何点足りなかったの?」


 私が聞くと彼女は人差し指を立てた。


「あと一問」


「惜しい!」


「ホントだよ、一問ぐらい大目に見てほしい」


 彼女はため息交じりにそう呟きながら、置いた箸を手に持ちウインナーを口に入れた。そのウインナーが口からなくなると彼女は再び話題を振って来た。


「そういえば小野鬼さんってよく宮岡くんのこと見てるよね」


「え!?そうかな?」


「確かに!何かあるの?」


「ううん、何もないよ」


「でも授業中も時々、さっきだって教室を出て行く宮岡くんを見てたよね」


「・・・」


 私は無言で目を逸らした。彼を見ていたのは事実だったから。そんな私を見て二人はニヤリと微笑んだ。


「もしかして宮岡くんのこと気になってる?」


「・・・そんなんじゃないけど」


「そっか~」


 二人は残念そうな、でもよかったって顔で私を見てきた。


「まぁ、宮村くん彼女いるしね」


「そうなの!?」


 私は逸らした目を彼女たちに向ける。


「あれ、知らなかった?宮岡くん、三組の鬼条さんと付き合っているんだよ」


「鬼条さん?」


 初めて聞く名前に首を傾げる。当然、このクラスの人の名前をようやく覚えたばかりの私が他クラスの子の名前なんて知るわけがなかった。


「とってもきれいな人だよ。成績は学年トップだし、いろんな人に優しい」


「そんな人がなんで宮岡くんと?」


 思った疑問を口にすると彼女たちは顔を合わせた。


「わからない。でも宮岡くんも優しい人だからね、そこに引かれたのかも」


「宮岡くん、顔もそこそこいいしね」


「今日も屋上で会ってるんじゃない?」


「そうなんだ」


 彼がいつもどこに行っているのか気になっていたけど、屋上に行ってたんだ。あそこから見る夕日は綺麗だったな。


 一人違うことを考えていると弁当を先に食べ終えた目の前の子がため息をついた。


「はぁ~、彼氏欲しい」


「私も~」


 話題をよく振ってくれる右に座っている子が同情する。私はあまり考えたことがないのでその気持ちはよくわからない。


「彼氏と言えば、もう時期文化祭の準備があるらしいね」


 彼氏=文化祭のつながりがわからず、私は首を傾げながら二人に聞いた。


「彼氏と文化祭にはどんな関係が?」


「小野鬼さんは知らないか。文化祭の最後にキャンプファイヤーがあってね」


「そこで一緒にダンスをしたらその二人は結ばれるんだって」


 二人は目をキラキラさせながら説明してくれた。


「二人は気になっている人とかいるの?」


 聞くと二人そろって首を振った。


「私はいないかな」


「私はいる・・・よ」


「誰!」


 横に座っている彼女はもじもじと俯きながら答えた。


「サッカー部の堀北君」


「二組の?」


 彼女は顔を赤くしながらコクリと頷いた。


 そこからはずっとその子の好きになった経緯や好きなところなどを根掘り葉掘り聞かれているのを昼休みの終わりまで聞いていた。

















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