第29話 買い物デート 3
「おまたせしました。たこ焼き2つとドリンクです」
カウンターの上に置かれたトレーを受け取ると純恋が座っている席に向かった。
あの後いろんな店を回ったが、彼女が気に入った服は見つからず、手ぶらのままフードコートで休憩を取ることにした。1時を過ぎているので席はかなり空いている。
「お待たせ」
トレーを机の上に置くとスマホを操作していた彼女が顔を上げる。
「ありがとう、お金何円だった?」
「お金はいいよ」
「そうもいかないって・・・」
彼女はいつも通り鞄から財布を取り出そうとする。
「何円?」
「お金はいいっていつも言ってるのに」
「だっていつも奢ってもらってばっかりだもん。水族館の時も祭りでもそう。私ばっかり何かしてもらって私は何もしてあげられてない。だからせめて自分の食費ぐらいは払わないと」
彼女は真剣な目で俺を見て来る。彼女の目は横を見ることなく、一点をじっと見ている。そんな彼女を見ながら頬を緩ませ、頬杖をついた。
「それは違うかな。俺は純恋からいつも元気を貰ってるよ」
「・・・元気?」
彼女は何を言っているのわからないといった顔を見せる。しかし俺は言葉を続ける。
「そう、元気。嫌なことや辛いことがあっても純恋の笑顔を見たらそんなこと全て忘れられる。純恋が頑張ってたら俺も頑張ろって思える。俺はいつも純恋に助けられているようなものだからね、これぐらいはしてあげたいんだよ。だからお金は払わなくていい」
「それは私もだよ」
机に手をつき勢い良く彼女は体を乗り出した。その光景に周りの人の視線を感じた。彼女もそれに気づいたのか萎れながら席に座った。
「私も裕二くんといると嬉しいし、幸せだなって思うよ。裕二くんが頑張ってたら私だって頑張ろうって思うもん。だからこれはおあいこ。なのに裕二くんばかりがお金出してる、そこは不公平だよ」
どうもこの会話がお金を受け取らないと終わらないのだろうか?そう考えているとふといい案を思いついた。俺は頬杖をやめて背中を伸ばした。
「じゃあ、今度俺のお願いを一つ聞いて。それならいいでしょう」
彼女は顎に手を当てながら無言で少し考え始めた。俺の顔の真下では徐々に元気をなくし始めた
「わかった。そうする」
考えてがまとまった彼女は顔を上げた。ようやくこの話が解決したので俺はトレーの上に置かれたたこ焼きを手にする。
「でも、えっちいのはなしね」
「え〜」
「え〜って、もしかしてえっちなことをお願いするつもりだったの!?」
冗談で言ったつもりなのだが彼女は本気で捉えてしまった。早く弁解しないと本当に俺がその手のお願いをするつもりでいると思われる。
「冗談だよ」
「もう〜!」
彼女は頬を赤らめながらも膨れて見せた。そんな彼女の顔を見ながらトレーに載せられたたこ焼きを爪楊枝で取ると自分の口に放り込んだ。話をしていたからか、たこ焼きは丸々一個口に入れても熱いとは思わないほど冷めていた。
「それでお願いって?」
彼女ももう一つのたこ焼きのパックを自分のもとまで持っていってからたこ焼きに爪楊枝を刺した。
「まだ決まってない」
「・・・そうなんだ」
彼女の返事の後、少しの沈黙をもってこの話が終わった。
フードコートでたこ焼きを食べ終え、俺たちはまだ見ていない三階に向かった。しかし三階にはあまり目を引くようなお店はなく、結局またフードコートに戻って長々と二人で話をした後、それぞれの家に帰ることとなった。
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