第28話 買い物デート 2

土曜日の電車の中は涼しいがかなり混んでいた。やはり休日は出かける人が多い。いつもののように通勤通学する人もいれば、普段は使わない人たちが乗るのだから当然だ。それに九時過ぎと言うことで時間も悪い。なので今回はつり革を掴んで立っている。


身動きがほとんど取れないまま純恋が待っている駅に着いた。電車が駅に着くと入り口付近にいた人たちが一斉に出て行く。その人たちと入れ替わるように待っていた人たちが入って来る。その中で純恋を見つけた。純恋は車内に入りながら周りとキョロキョロと見渡して電車の先頭側にいた俺と目が合った。彼女はまだ隙間が空いているうちに周りの人たちの間を抜けて俺の元に来た。


「おはよう」


「おはよう、今日も混んでるね」


彼女は隣のつり革を掴みながら笑顔を見せた。今日の服装は青のワンピースに白の薄いカーディガンを羽織っている。手にはハンドバックを持っている。


「今日の服は大人っぽいね」


思ったことを口にすると彼女は自分の服を見下ろした。


「変かな?」


「そんなことないよ、よく似合ってる」


彼女は照れ臭そうに頬をかいた。


「・・・ありがとう」


出かけた時のいつもの会話を終えると日常会話を始める。これが俺たちのデートの恒例となっている。


「昨日ね、お父さんがプリン買ってきたね、それがとても美味しくてさ〜」


そんな会話をしながら俺たちはショッピングモールのある駅まで揺られた。


電車を出て駅を降りると車内とは対照的にむしむしとした熱気が降り注いでくる。おでこのところで手を当てて日陰を作ると気持ち程度の涼しさを感じた。


「熱いね」


彼女も持って来ていたらしいハンカチで額を拭いている。


「ささっとモールに行こうか。ここにいても熱いだけだし」


「そうだね」


俺たちは目の前に見える大きな建物を目指して歩いて向かった。



モールには数分で着いた。自動ドアを潜ると外とは段違いの涼しさがかいた汗を冷やしていく。背中がひんやりと感じるが、いつか乾くだろう。


「すぐに服を見に行く?」


入り口横で俺が提案すると彼女は首を左右に振った。


「そんなに急がなくても服はなくらないよ。それよりゆっくり店内を歩こう。もしかしたら気になる商品があるかもしれないし」


「そうだな、時間もたっぷりあるしな」


「うん」


俺と彼女は目的もなく店を歩くことにした。



店内はいろんな店が並んでいる。子供のおもちゃや駄菓子屋、本屋に占いの館なんてものすらあった。


しかしそれらはほとんどスルーした。店には入りはするももの、見るだけで買うことはなかった。そんな寄り道をしながら彼女のよく行くというお店に着いた。


店内にはすでに多くの客が服を手に取って自分に重ねてみたり、試着室に行って着ている人がいた。店員も大変なようで人数は少ないがカウンターに二人、試着室の前に一人、客の相談に乗っている人が二人いる。店員の服の胸元には分かりやすく名前の入ったネームプレートが付けられている。


店内をそんなふうに観察していると彼女が一枚の服を手に取った。


「これどうかな?」


彼女は真ん中に英語の書かれた白のtシャツを手にしていた。それを広げて自分に当てている。


「可愛いと思う。今の服装にも合いそうな気がする」


「本当?」


彼女は服を持ったまま鏡の前に立った。何度か左右に体を揺らしながら前横を確認している。


「可愛いけど・・・やっぱりやめよう」


彼女は服を畳むと元の場所に戻した。


「どうしてやめたの?」


「えっとね、可愛いんだけど、この先すぐに着なくなりそうだなって思って」


確かに彼女の持っていた服は生地が薄い。秋の半ばまでは良さそうだが、冬に近づくと着なくなるのを見越しての決断のようだ。


彼女はすぐに横の服に目を向ける。真剣な眼差しでそれらの服を見ていると彼女は首を振った。


「ここにはないみたい。他のところ行ってもいい?」


「それは別にいいよ。今日は純恋の買い物に付き合うつもりで来ているんだから」


「ありがとう。じゃあでよっか」


店内を一通りすると店を後にした。





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