第32話 文化祭準備 2

「それじゃ、まず最初に文化祭実行委員を決めたいと思う。誰かやりたい奴はいないか?」


 六時間目開始直後、担任の一言に教室が静まり帰る。外でまだ生き残って鳴き声を上げているセミの声がうるさいと感じる。


 クラスメイトのほとんどが頭を下げて担任と目を合わさないようにしてる。


「誰もおらんかったら・・・」


 担任はそう言いながら教卓の下から竹筒に入った木の棒を取りだした。


「これで決めるぞ」


 その声に下を向いていたクラスメイトの担任の顔を見る。


「この棒には数字が41番まで書いてある。二回引いて出た人にお願いする。なお、二人とも男子、女子になってもそのメンバーでやってもらうからな。男子が出たからほかの男子は安心ってことはないからな」


 担任の決めたやり方に不平不満を口にするがそれらは無視された。


「それじゃ引いていくぞ。覚悟しろよ」


 担任は何回か中の棒をまわしてシャッフルし、上を見ながら一本の棒を引いた。


「一人目は・・・41番、小野鬼さんだな、よろしく」


 みんなが彼女の方を向く。彼女は驚きを隠せず目を見開いていた。彼女が41番なのは転校生に合わせて番号を変えるとこんがらかるかららしい。一人目が彼女とわかると俺と大智以外の男子が一斉に手を上げ始めた。


「俺やります!」


「やりたくなりました!」


「やりたいです!」


 その異様な光景に担任も驚きながらも笑みを見せた。


「そんなに人数はいらんからな・・・手を上げたやつらで勝手にじゃんけんしてくれ」


 立候補した男子はお互いに顔を合わせると席を立って腕を高く上げた。


「「最初はグー、じゃんけんポン!」」


 みんながバラバラに出すので当たり前だがあいこばかりで一向に決まる気配がない。俺は空を流れる雲を目で追いながら分かれてやればいいのに、と思いながらも何も言わず、ただ決着がつくのを待っていた。


 負けて悔しがる生徒と勝ち残って喜ぶ生徒の声がだんだんと白熱していく。視線を教室の中に戻ると勝ち残って席を立っている生徒は残り3人となっていた。


 あるものは握った拳を反対の手で覆って構え、あるものは掌を合わせて天に祈っている。また、あるものは小野鬼さんの方を目で捉えながらじゃんけんの構えをしている。


「いくぞ!」


 天に祈っていたやつの声に立っている生徒の目つきが変わる。


「よし、こい!」


「勝つ」


「「じゃんけん、ポイ!」」


 最後のじゃんけんはあいこになることなく、天に祈っていたやつがパーを出して勝利した。そいつは勝ったとわかると自分の拳を高々と無言で天に突き出した。


「ようやく決まったか?」


 長すぎて・・・ってほどではないが立ち疲れてパイプ椅子に座っていた担任が立ち上がった。


「はい」


 勝ったやつがうれしそうに担任の質問に答える。


「じゃあ、決まったことだし、これから二人に文化祭の出し物の話し合いを仕切ってもらう。今日は出し物のことだけでいいぞ。俺は職員室で仕事してくるから」


 文化祭役員になって二人が前に出て来ると、担任は入れ替わるように廊下に出て行った。


 二人は困惑して黒板の前に立ち尽くしていたが、顔を一度合わせるとじゃんけんに勝った生徒が自ら一歩前に出た。


「じゃあ、これから文化祭の出し物を決めたいと思う。候補がある人は手を上げて欲しい」


 その声にさっきまで全然上がりもしなかった女子も手が上がる。彼は少しクラスを見渡した後、いつも仲良く話している男子を指名した。


「喫茶店がいいと思う」


 案が出ると彼は後ろを向いた。それに気づいて小野鬼さんがチョークを手に取って黒板に書き始めた。


 書き終ると彼は再び俺たちの方を見渡した。こんな感じで男子、女子の順番で指名されていき、手が上がらなくなったところで案だしを打ち切った。


「案がもうなさそうなのでここで打ち切ります。出た案は、喫茶店、お化け屋敷、コスプレ喫茶、たこ焼き、クレープ、ラーメン、ポップコーン、綿菓子、ジェットコースター、的当て、演劇、プラネタリウムが出た。一人一回手を上げてくれ。最初に喫茶店がいいと思う人」


 彼が一つ一つ言っていき、それぞれが手を上げていく。俺はやっぱり王道がいいと思うお化け屋敷に票を入れた。ほかの人も同じようで結果としてお化け屋敷に決まった。


「このクラスからはお化け屋敷を出すということでいいかな」


 一同が首を縦に振るとタイミングを見計らってかのように担任が教室のドアを開けた。


「決まったか?」


「はい、うちからはお化け屋敷をすることに」


「そうか、ちなみに各クラスには製作費として学校側から一万円渡されるからな。それを超えたり各自の自己負担だから覚えておけ。金は俺が持っておくから必要となれば言ってくれ」


 担任の話が終わるとチャイムが学校内に響き、そのまま終礼となった。

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