第33話 文化祭準備 3

 文化祭一週間前になりようやく俺たちのクラスは文化祭の準備を始めた。理由としては部活している人が準備に参加できないのに、部活に入っていない人がコツコツと仕事をするのは不公平だということからだ。部活で出し物をするところもあるが、ほとんどはクラスに集中するために出し物を出さないようにしているらしい。


「じゃあ買い出しと段ボールを取って来る人、それから衣装調達や作成するグループに分かれてそれぞれの仕事を始めよう」


 放課後のクラスに残っている生徒に実行委員長となった彼が声をかける。俺は買い出しとお化け屋敷の脅かし役を担当することになった。買い出し係は俺と小野鬼さんの二人だけ。これにも理由がある。


 まず、実行委員長の彼が学校からいなくなると周りのグループに的確な指示が出しずらいということで居残りに。しかしお金は実行委員がいないとダメだということで小野鬼さんが自然と行くことになった。じゃあほかに誰が行くかと言われたらほかの男子が立候補しないわけがない。その件で男子が長々と討論をしていると女子から提案があった。


「あんたたちの誰かじゃなくて宮岡くんに行ってもらえばよくない?みんなに公平だし」


 その案に討論していたやつらが同意をした。討論に参加していない人間に行かせればいだろうということらしい。いつもは大智もいるのだが、サッカー部は毎年一年生がカレーを出しているらしく、それに参加しに行って今はいない。話では当日もクラスを手伝えないらしい。サッカーとカレーの結びつきはよくわからない。


「宮岡くん、行こうか」


 俺の席まで迎えに来た小野鬼さんは手に茶封筒を持っている。


「その封筒の中に入っているの?」


「うん、先生がこのまま渡してくれた」


 何を、とは言わなくても彼女は俺が聞いているものが何なのかわかったらしい。封筒から一万円札を取り出すとポケットから自分の財布を取り出してその中に入れた。


 俺は席を立つと彼女の横を歩きながら教室を出た。



「それで何を買うの?」


 近くのショッピングモールに着くと彼女が聞いてきた。純恋と行ったモールと比べると小さいが、それでも俺たちが文化祭に使うためのアイテムなどぐらいはあるだろう。


 教室を出る前にもらっていた四つ折りにされたルーズリーフを開く。ルーズリーフには箇条書きでいくつものアイテム名が書かれている。


「えーと、まずカラーペンと厚紙の画用紙、それとガムテープをなるべく多く。これが看板に使うみたいだな。あとは黒いビニールテープ、黒い布、おもちゃの包丁にだって。あれば仮装用の仮面と生首の人形だって」


 ルーズリーフを見て読んでいると彼女も俺の持っているルーズリーフを横から覗き込む。


「ほとんど100均でそろいそうだね。でも生首はあるのかな?」


「あればって書いてあるからなければいいじゃない」


「う~ん」


 彼女は不満げな声を漏らす。生首なんてあるかどうかなんてわからないが、ひとまず目的地に行かないことにはわからない。


「生首はひとまず置いといて、買えるものから買っておこう」


「そうだね、暗くなるまでには教室に帰らないと」


 俺たちは時間的に人の少ない店内を歩き始めた。



 100均でおなじみの店に入るとひとまず店内を端から回ることにした。この町に住み始めた彼女もまだここには来たことがないようで、店内のどこに何があるかわからないらしい。


 二人で上につるされている看板を見ながら回っているとすぐに目的のもが書かれたエリアを見つけた。


 彼女は場所がわかると小走りでその棚に近付いて行った。そして目的のものが見つかったようで棚に中腰で立ち止まった。しかしそのまま動かなくなった。


「どうしたの?」


 歩いて彼女の横まで来るとそう尋ねてみた。彼女は一度俺の方を見ると二つのガムテープを手に取った。


「使うならどれがいいのかなって」


 商品棚には彼女の持っているよく見る大きさのガムテープとその半分の幅のガムテープ、通常の二倍の幅のガムテープに黒や白のガムテープとガムテープにもいろんな種類が置かれていた。


「ガムテープってこんなに種類があるんだな」


 そう言いながら彼女が手に持っていない黒い通常サイズのガムテープを手に取った。


「お化け屋敷に使うんだし、黒い方が目立たなくていいじゃないかな」


「でも看板とかにも使うんだよね?だったたら普通のもあった方がよくない?」


「そうだな・・・なら両方買って行けばいいんじゃない?ガムテープなるべく多めって書いてあるんだし」


 手に持っていた買い物籠に黒いガムテープを三つ、通常のを二つ入れた。こんなに要らないような気もしたが、ないよりはましだろう。


 次にビニールテープ、画用紙、カラーペン、黒い布におままごとに使う包丁を無事見つけ店を出た。


 店を出るとそんなに長くいたわけではないが、通路を歩いている人の数が増えているような気がした。


「仮面とかって100均にあると思ったけどなかったね」


 俺の持っているビニール袋を見ながら彼女が言った。俺も100均で見かけた覚えがあったのだが、大きい店舗ではないので置いていないのかもしれない。


「まぁ、ほかの物はそろったし学校に戻ろうか」


 そう提案すると彼女は首を振った。


「モール内を見て回らない?もしかしたら見つかるかもだし」


「でもあれはなければないでいいって・・・」


「でもあった方が本格的にならない?」


 確かにあった方がいいに決まっている。脅かすのが人だけでも怖いと思うが、通路に生首が置かれていたりすれば怖さは増すだろう。仮面は・・・なくてもメイクで何とかなるような気がするけど。


 俺はポケットからスマホを取り出し画面を見る。学校を出たのは4時ぐらいだった。今は47分、1時間も経ってはいなかった。俺たちが速く帰っても今日はほとんど作業が進まないだろう。段ボールもどこの店まで貰いに行っているのかわからないし、今日迷路の通路を設置できるわけではない。通路の設置は前日になるだろう。なら、遅くなっても何も言われないだろう。


「わかった、回ってみようか」


「うん」


 彼女は嬉しそうに笑うと通路を歩き始めた。












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